「なんなら気がすむまで殴ればいい。俺は運び屋にも新羅にもそうされるだけのことをした自覚はあるよ」
目の前の男はそう言って、肩をすくめてが笑う。
じゃあ遠慮 なく、拳にぐっと力をいれると臨也は目を瞑って歯を食いし ばる。本当に逃げる気はないようだ。
殴られる覚悟をするくらいなら始めから仕掛けなければ良いのに。思わず笑ってしまいそうになるのを堪えて、僕は臨也がまだかと伺うように目を開いた瞬間をみはからって、拳をこつんと額にあ ててやった。
ああ、せっかくの眉目秀麗が間抜け面になっているよ。唯一の取り柄なのに。
「拍子抜けだな、おまえの殴るってそれだけ?」
「うん、まぁ、僕は治すのが専門だから。できれば友人は傷 付けたくないしね」
ふ、と臨也が小さく息をついた。なんだ、やっぱり殴られた くないんじゃないか。僕は臨也に微笑みかけて、そのまま右手を頬に向けて繰り出した。
さすがに僕の力ではアニメやドラマみたいに吹き飛んだりは しなかったけれど、臨也は少し後ろによろめいた。
「これはセルティのぶんね」
僕としてはたった二人の友人のうちの一人なので彼の悪行は たいてい許せてしまうのだけど、彼女のこととなるとそうは いかない。セルティは怒っているし、セルティを巻き込んだ ことについては、僕は怒っている。
「……発言と行動が矛盾してますよ、先生」
「彼女の意見を尊重したまでさ」
「あぁはいはい、セルティにもあとで謝ります、これでいい だろう?」
反省しているのかいないのか、相変わらず真意は読み取れない。
きっと臨也はまた僕らを巻き込んで騒乱を起こすだろう。それでも許してしまう気がするので僕は大概このどうしようもない友人には弱いようだ。
「殴ってごめんよ。さぁ、治療してあげよう」 

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