「隊長、なにやってるんですか?」
部屋から死角になりそうな壁のところから顔を少しだして研究室を覗いていたらエリナに声をかけられた。
「……エリナ、俺はいま大切な任務中なんだ」
「任務?なにか面白いことですか?」
楽しそうに聞いてくるエリナに俺は内心しまったと思いつつどうしようか悩んだ。
「え、っと……エリナ、そろそろ任務の時間じゃないか?」
「終わったばかりです」
「……じゃあ、ラウンジで休憩……」
「そんなに私に教えたくない任務なんですか?」
落ち込んだように言ってくるエリナ。
落ち込まれると困る。
「……わかった、他言無用だからな」
「はい!」
結局負けるしか道は残されていないんだ。
「とりあえず、ソーマが最近優しくなったじゃん?」
「前がわかりませんけど」
「まあ、とにかく変わったんだよ!それで、もとからモテてたけど最近さらにモテ始めたからさ…」
「気になるんですか」
「ああ。すごく」
「好きなんですか?」
「え?」
思いがけない言葉に俺は驚く。
「隊長、ソーマさんのこと好きなんですか?」
はっきりとたずねられた。
「すすすすす、すき!?」
声が半分以上裏返った。
「なに動揺してるんですか。恋とかのスキじゃあるまい……し……」
は、とエリナが俺を見た。
「まさか、好きなんですか!?」
「ち、ち…ち……ちが…」
「前から隊長のソーマさんへの態度おかしいとは思ってたんですよ」
「いや、……あの……」
「なるほど、それでこんなにコソコソしてたんですね」
「エリナさん、俺の話を聞いて下さい。べつに俺ソーマのことスキじゃな……」
土下座する勢いで俺はお願いした。
「なにやってるんだ?」
頭上から声が聞こえた。
「ソーマ!」
「お前は何に土下座してるんだ」
「え?」
視線をエリナに向けると、さっきまでいた場所にいなく、離れた場所からガッツポーズするのが見えた。
(え……はやい……。どこからエリナは聞いてなかったんだ?)
俺は苦笑しつつ、もうどうにでもなれと半諦め状態で立ち上がる。
「コウタ」
「なに?」
「……俺のことスキじゃないのか?」
そう聞かれて俺は一瞬かたまった。
「は!?なんで?」
「お前の一人言が聞こえた。もうお前と関わらない方がいいのか…?」
「え?!いやいやいや、なんでそうなるんだよ!スキだよ!」
「じゃあさっきのスキじゃないってどういう意味だ?」
「え……え…っ、え」
ずいっと近づいてくるソーマに俺は後ずさる。
しかし背中が壁にあたり逃げ場を失う。
(恋とかそんな風なこと考えてたとか知られたら引かれるよな……)
「……」
「……」
(うわぁ…目が怖い……。超睨まれてる)
俺は覚悟してソーマに言うことにした。
「ソーマのこと、恋愛感情的な方ではスキじゃないって話で……」
「なんだそれは」
多少呆れ気味に言われた。
「わかんねーよ。そういう流れになってたんだよ!」
「ってことは俺のことは嫌いじゃないんだな?」
「当たり前だろ!ソーマのことスキだぜ」
これは自信満々に言えることだ!と付け足す。
するとソーマは珍しく微笑んで「そうか」と言った。
その表情に一瞬ときめいたのはきっと何かの気のせいだ。……と思いたい。