♯歪曲/数年後設定 「小春、こっち」 『臨也くん!』 声のした方へ振り返れば数日ぶりに見た顔。校門付近は何故かいつも以上に人で溢れかえっていて、人混みを縫うようにしてやっとの思いで彼の元へ辿り着く。 周囲の女の子たちの視線を一心に浴びる彼の表情がどこか愉しそうに見えるのは、きっと気のせいではないはずだ。 『わざわざ迎えに来てもらってごめんね』 「別に君が気にすることじゃないよ。俺がそうしたかっただけだし」 『それにしても…、』 「ん?」 『ううん。なんでもない』 彼はというと黒を基調としたシックな私服に身を包んでいて、なんだか腹が立つ程に似合っていた。眉目秀麗とはよく言ったものだ。 まあ、こんなこと本人には絶対言わない。というか言えない。口に出そものなら、絶対調子に乗るだろうから。 「それじゃあ行こうか」 『あ、うん』 「はい」 『……人いっぱいなんだけど』 「だからこそ、だよ」 あっという間に私の右手は彼に攫われ、周りからは悲鳴にも似た黄色い声。なんとなく予想はしていたものの、予想以上の反応に何とも言えない。 あぁ、それでこんなに機嫌が良かったのか。彼の奇人っぷりを改めて認識して呆れる反面、どこか安心している自分がいた。 「今日どうだった?」 『いつも通りだったよ。臨也くんは?授業難しい?』 「正直言って授業の内容には全くと言って良いほど興味が湧かないけど、それなりに楽しいよ。中学や高校と違って知らない人間ばかりだからねぇ」 『そういうとこは大学生になっても変わらないんだね』 「変わらないんじゃなくて、変えないんだよ」 溜息混じりの私の声に、彼は少し穏やかな表情でそう言った。久しぶりに会った彼は服装のせいかどことなく大人びて見える。 もうあの学ランを見ることはないんだ。そう思うと、とても懐かしい。 次々と溢れ出す高校時代の思い出の数々に少しの寂しさを覚え、握られた手に力を込める。隣を歩く臨也くんは、そんな私をキョトンとして見つめてからふわりと笑った。 「ま、変わる気もないから安心してよ」 何度季節を重ねようとも 僕は君の隣を選ぶだろう 『ねぇ、臨也くん』 「なーに?」 『好きだよ』 「……俺の方が小春のこと好きに決まってるけど」 『うん。ありがとう』 |