告白されてから気になりだすとか、付き合ってて好きになるとか、それから両想いになるなんてことは稀じゃない。 「でもそれは違うと思うんだよねぇ」 『へえ、そうなんですか』 「……ちゃんと聞いてた?」 『聞いてましたけど』 聞かれたから答えた、これで満足か。今にもそう言い出しそうな顔に内心溜息を吐く。 返答がないのを不審に思ったのだろう。俺と同じくソファに身を預けたままだった彼女は、ずいと身を乗り出し下から覗き込んだ。 『臨也さん?』 こちらをじっと見つめる瞳に思わず目を逸らしそうになる。けれども動揺を悟られまいと、なけなしの理性で必死に自分を押さえ込んだ。 彼女の突発的な行動は、どうにも心臓に悪い。もっと自覚というものを身に付けるべきだと俺は思う。 「分かった、質問を変えるよ。俺の話を理解してくれた?」 『いいえ、全く』 「それじゃあ例え話をしよう」 俺は人間が好きだと公言しているけれど、人間の方はどうだ?……シズちゃんは化け物だから別として、人間の方から容姿ではなく“俺自身”を好きになったことがあるだろうか。 そう問えば、小春は再び手元の雑誌に視線を落とした。訪れるのは沈黙。 せめて何かしらの反応をしたらどうだと反論したいところだが、言ったところで何が変わるわけでもないのは分かりきっている。仕方なく喉まで出かかった言葉を飲み込んだ。 『臨也さんは…、』 「……俺が、何?」 『いつも分かったような顔で、無神論者のくせに自分は神様気取りで楽しんでますけど』 「…………」 『何も、分かってないです』 言うなれば、親に怒られた子供が拗ねてしまったような。泣きそうになりながらも反発しようとする、そんな顔。 彼女の言葉の真意が分からないのが俺を掻き乱し、隠すこともせず顔をしかめる。やはり他人に自分のペースを崩されるのは苦手だと、そう思った。 『確かにどれだけ貴方が人間を愛そうと、彼等が臨也さんを愛す、なんてこと。とてもじゃないけど有り得ないです』 「随分なこと言うね」 『でも、私は臨也さんのことが好きです』 「…………え?」 『それだけは忘れないで下さい。忘れたら、許しません』 理解するまでに相当の時間を要した脳はやっとの思いで活動を再開し、同時に込み上げてくる言葉にならない歓喜。 次第に熱をもってゆく頬を隠すように彼女を自身の腕に納めた。苦しいと言いつつも押し返さないあたり、受け入れられてると取っていいのだろう。 「ねえ、今ものすごく幸せなんだけど。もう小春のこと好きすぎて死にそう」 『気持ち悪いです』 「……俺とっても傷付いたよ」 これだから俺は 抜け出せないんだ 「君ってさぁ、ほんと空気読めないよね」 『読めないんじゃなく読まないだけです』 「俺のトキメキを返せ」 |