私はどうしようもないくらいに彼が好きだ。真面目で、それでいて優しくて面倒見の良い彼――奥村雪男のことが。 塾で見せる教師らしい真剣な表情であったり、はたまたクラスで見せる控えめな一面であったり、二人きりのときに見せる子供っぽい無邪気さであったり。 次から次へと上げればキリがないような、彼の断片は私の胸を締め付ける。 「どうしたの」 「ううん、何でもないの」 「また考え事?」 「そんなとこ」 彼の真っ直ぐな視線がこちらに向き、すぐそばに腰を降ろす私を捉えた。青みがかった綺麗な瞳に私だけが映る。 そんな些細なことにすら感じてしまう、優越感。 けれど、なんだか急に恥ずかしくなって彼から目を逸らせば、隣からはクスクスと堪えるような小さな笑い声が聞こえた。 「ねえ」 「……なに」 「今、僕のこと見てたでしょ」 疑問系でないあたり、彼は相当の確信犯だ。 そんなことないと突っ撥ねてはみたものの、持て余された熱は行き場を求め暴れ回る。バクバクと、心臓がうるさい。 「雪男は、ずるいよ」 「なんで?」 「……ばか。いじわる。ほくろめがね」 「最後のはちょっと聞き捨てならないなぁ」 にっこりと微笑んだ表情のまま。それでいて、強められた語調には確実な威圧感が含まれていた。 次の瞬間には男らしさを感じさせるような程良く筋肉のついた腕に引き寄せられ、目前に迫る彼の整った顔に浮かぶのはニヒルな笑み。 普段見せないその表情に、場違いだと分かっていながらも胸が高鳴る。 「ねえ、覚悟は出来てるんだよね」 「ゆきお、」 降ってきたのは、呼吸すら奪うようなキス。至近距離で感じる彼に目眩すら感じ、うっすらと細められた眼鏡の奥に潜む光が私を酷く酔わせる。 そうしてまた、私は彼という深みに堕ちてゆくのだ。 つたない呼吸が わたしを呼んでる 20110909 "無条件降伏"様へ提出。 |