サイケは私が臨也さんの家にお邪魔する度に「あのねあのね!」と言って歌を聴かせてくれる。もう、それはそれは綺麗な声で。 最近はすっかりそれが習慣になってしまったようで、その歌声を聴かないとここに来た気がしないくらい。 サイケが楽しそうにしているのを見てたら無性にカラオケに行きたくなった。そんなわけで彼に頼んだら露骨に嫌そうな顔をされ、今に至る。 『行きましょうよ。せっかくだから、外を知らないサイケに池袋の案内もしてあげたいですし』 「シズちゃんに見つかってみろよ。ブッ壊されて泣きながら帰ってくるのが関の山だ」 『う、それは…そうですけど、でも……』 「っていうかわざわざ店に行ってまでして歌わなくても良いじゃん。サイケとリビングで歌ってなよ」 『…………』 「……何だよ」 『もしかして音痴とか?』 「…………や、別に」 私が言葉を発した途端、みるみるうちに歪んでいく目の前の端正なその顔。 私の非常に残念な頭の隅では、この表情初めて見たな、なんて場違いも甚だしいことを考えていたわけだけれど。 『あの、まさかとは思いますけど、音楽できなかったりします?』 どうやら図星だったようだ。誤魔化そうとしているのか賢明に上げたらしい口元はぴくぴくと引きつっている。 なんというか、そんなにコロコロと表情が変えられるのなら、サイケみたいに可愛らしい笑顔の一つでも浮かべて欲しいものだ。……あ、いや、やっぱ良いや。うわやだ気持ち悪い。想像しちゃったよ。 『まあ、顔も良いし運動神経も抜群、勉強もそれなりに出来るわけですから。そこまで完璧だったら不公平ですもんね』 「だってほら、俺だって人間だからさ。苦手なことの一つや二つあって当然じゃない」 『……あ、はい』 「そもそも人間というのは不完全なところがあってこそ面白い。それでなきゃ観察のし甲斐がないからねぇ。ま、俺に関して言えば、かえって親近感が湧いたんじゃない?結果的に君にとってプラスになったわけだし、良かったね」 急に調子を取り戻した彼は、身振り手振りでよく分からぬ弁解を始めた。私に向けてるような、それでいて自分に言い聞かせるような、そんな言葉の羅列が脳内をぐるぐる巡る。 いつもなら口で上手い具合に丸め込まれてしまうが、さすがの私も今回ばかりはそうはいかないようだ。 私にはその姿がなんだか酷く滑稽に見えてしまった。まあ、あれだ。ドンマイ、臨也さん。 叩けば埃が出る (……そっかぁ) (おい。何だその目) |