『臨也さん』 付けっぱなしのパソコン、机に広げられた様々な書類、チェス板に広がるいくつもの駒。 そんな見慣れた景色。 『あの子に嫌がらせしたの、あなたですよね』 「嫌がらせなんて心外だなぁ。俺はただ、悪い虫が寄らないようにしてやっただけじゃない」 『だからってあそこまで、』 「何?その子を庇うの?」 君は優しい。自分の利害なんかよりも、いつも他人を優先させる。 だけど俺には、遠慮なんてして欲しくない。どうか俺に独り占めさせて欲しかった。 『……もう、臨也なんか嫌い』 ありふれた日常の中を君だけは逆らう。 それでも俺は、唐突に告げられたその言葉にいつもと同じ笑顔を張り付けてみせるんだ。 「そう。それじゃ仕方ない」 俺が口を開くとびくりと肩を震わせ、さっきまで怒りに歪んでいた表情が変わってゆく。 苦しそうな、今にも泣き出しそうなそれに。 「今日で俺達はお別れ、だね」 『……知ってますか』 終わりを告げる言葉を紡げば、怒りに任せて俺を罵倒するでもなく、かと言って決して縋ったりせず君はただ一言だけ呟いて去ってゆく。 ――臨也さんって、本当は誰よりも馬鹿で不器用なんですよ。 あぁそうだ。君はいつもこうして他の女とは違う反応を見せてくれる。 だから、好きだった。人間としてではなく一人の女の子として、俺は君を愛していた。 「何やってんだろ俺」 意地っ張りタクティクス (どうやら) (俺の負けみたいだ) |