「おはよ」 ドアを開けると同時に脳が認識したそれに心臓が握り潰されたような感覚を覚えてしまう。少し耳に残る、けれど決してクセのない心地よい爽やかな声。 それから、視界に入ったどこか見覚えのあるシューズと制服の黒い裾。それを辿るようにして俯き気味だった視線を恐る恐る上げれば、そこには確かに折原くんが立っていた。 まさか幻覚ではないだろうかとも思ったが、今日は寝坊もしていないし意識はハッキリしているはず。 「何なの、その間抜け面」 『や、その、だって…』 「ん?暫く会ってなかったから寂しくなった?」 『いや、それだけは有り得ないけど』 「相変わらず無駄なところで素直だよねぇ」 困ったように眉を下げながら薄く笑うその表情は、紛う事なき折原臨也であった。 いや、間違えるなんてことはまず無いんだけれども。っていうかそれは間違えられた人に失礼というか、なんというか。 そうじゃなくて、私が言いたいのは何故彼がここにいるかという話なのだ。 「迎えに来てみただけだよ」 『……読心術でも身に付けてきたの?』 「まさか」 『じゃあなんで』 「顔に書いてあった」 『……………』 「そこまであからさまに嫌そうな顔しないでくれないかな」 嫌そう、じゃなくて嫌なんだけどね。言いかけた言葉は飲み込む。口に出したら何をされるか堪ったもんじゃない。触らぬ神に祟りなし。 そうして自己完結している間に近付いたらしい。気付いたときには彼の腕の中。かと思えば折原くんはあっという間に離れてゆき、行くよと、それだけ言い残して背を向けてしまった。 『ま、待って…!』 「早くしてよね」 開けっ放しにされていたドアを慌ただしく閉じ、大急ぎで鍵を掛ける。そんな動作さえもどかしくて、残された温もりを追うべく私は小さく駆けだした。 ドキドキしただなんて、折原くんには死んでも教えてやるもんか。 小さな宝を胸に秘め |