「おはよう、小春ちゃん」 何だろう。とうとう幻聴が聞こえてきてしまった。きっと疲れてるんだ。そうに違いない。 見てはいけないものを見たような気がして咄嗟にドアを閉めた。……はずだったのだが、隙間から入り込んできた足によって阻まれてしまったようだ。 『うわぁ…気のせいじゃなかったよ…』 「ちょっと!無言で閉めないでくれないかな…!」 止められても尚、頑張って見なかったことにしようとする私。 歯を食いしばりながら足で止める折原くん。手を使わないのは何故だろうと思ったのはここだけの話である。 それから暫く、少しだけ耐え続けた。けれど力の差というか日頃の運動量の違いは一目瞭然だし、男の方が多少は力が強いから仕方ない。要するに負けた。 『……あ、いたんだ』 「君って最近、何気ない感じでとてつもなく酷いこと言うようになったよね」 『すみません、どちら様でしょうか』 「さっきから俺の言葉が無視されてるのは気のせいじゃないと嬉しいんだけど」 『何で私の家の前に折原くんがいるの』 「会話する気ないよね!?」 口元をひくつかせる彼を見ながら内心してやったりと思いつつ、ちらりと視線をやった時計は講習が始まる30分前。誰かさんの所為で予定が狂ってしまった。 ……げ、折原くんと目が合っちゃった。何でそんなにニヤニヤしてるの。気持ち悪いからやめて。 「あの、心の中で呟いてるつもりだろうけど、全部口に出てるからね?」 『あはは、ごっめーん』 「……そういうことか」 急に閃いたような顔をした彼がようやく私に背を向けたかと思えば、ぐい、と前に引っ張られる感覚。 びっくりして引っ込めようとした私の意志は完全に無視して、そのまま手を引かれて家の外へ。 「はい、後ろ乗って。まあ乗らなくても俺は良いけど…間に合わなく、なっちゃうだろうね」 『……のみむし』 「シズちゃんみたいなこと言わないの」 私が仕方なく腰を降ろしたあと、一瞬だけこちらを振り向いた彼の顔が忘れられない。顔だけは無駄に整ってるんだからドヤ顔はやめて欲しい。 っていうか、まさか夏休み初日から折原くんと二ケツすることになるとは思ってもみなかった。 何が起こるか分からない、それが夏 |