外では存在を主張するかの如くセミがうるさく鳴き続ける今日この頃。 無駄に設備が整ったうちの校内では割と快適ではあるのだが、やはり興味のない話を聞き続けるのは少々辛いものがある。 「夏休み、か…」 『うん、夏休みだね』 ぽつりとうわごとのように呟いた平和島くん。彼が珍しく遅刻もせずに自分の席に着いているのは、たぶん今日が終業式だからだろう。 担任が諸注意だ何だと話しているが、流石に小学生じゃあるまいし、と内心思う。 『平和島くんは何か予定とかあるの?』 「予定…、」 『例えば家族旅行とか』 「その手があったか」 『あ、うん…』 その手があったか、って。彼は一体何を考えていたんだろうか。そういえば最近気付いたけれど、平和島くんは結構な天然と見た。こうしてたまによく分からないことを言い出したりするのだ。 まあ、どこぞの折原くんに言わせてみればバカだの単細胞だの、人を見下す為に生まれてきたんじゃないかと思うほどの勢いで喋り出すんだろうけど。 「やあシズちゃん」 『うわぁ…』 「臨也ぁぁあぁああッ!!」 噂をすれば何とやら。先生が“有意義な夏休みを過ごすように!”とお決まりの台詞を言い終わるや否や、教室の後ろのドアからひょっこりと顔を覗かせた彼に反射運動のように駆けだした平和島くん。 折原くんも本当に懲りないなぁと思いながら、たった今不在となった後ろの空席を見つめた。 『……夏休み、どうしようかなぁ』 ジリジリと、太陽が容赦なく照らす校庭に聞き慣れた声が響く。夏はまだまだ始まったばかりだ。 僕等の夏が始まる |