『斬る?』 「ああ、斬る」 「件の侍ですかィ」 朝から呼び出されたと思えば、行くぞの一言で駆り出された今日の任務。何でも動向調査も兼ねた市中見回りだとか。 だが、出発する際に持たされたのはゴミ袋。街の至る所に貼ってある紙を土方さんが剥がし、私と沖田さんが回収する。まあ薄々気付いてはいたが、実際ただのゴミ集めだったわけだ。 「うちの面子ってのもあるが、あれ以来隊士どもが近藤さんの敵とるって殺気立ってる。でけー事になる前に俺で始末する」 『だからってそんな……』 「土方さんは二言目には「斬る」で困りまさァ。古来、暗殺で大事を成した人はいませんぜ」 「暗殺じゃねェ。堂々と行って斬ってくる」 確かに他の隊士たちの気持ちは分からなくもない。でも、だからと言ってこんなこんなことをしなくてもと思う。 局長である近藤さんがやられたうえ犯人が捕まっていないのが広まったとなれば、恥の上塗りではないか。これでは近藤さんだけでなく、真選組そのものの信用にも関わってくる。 『……って、ちょっと待って下さい土方さん』 「何だよ」 『斬ってくるって、あなたまで何を言い出すんですか』 「仕方ねェだろ。問題が起きる前にこっそり消しちまえばバレやしねぇ」 『だからそういう問題じゃないですってば』 「いや、何も違わねーだろ」 一見誰よりも冷静だったはずの土方さんも今回ばかりはダメらしい。その銀髪の侍を斬ったからといって、根本的解決にはならないというのに。 しかも沖田さんなんてホームレスのおじさんを連れてくる始末だ。ちょっと、何で木刀持たせてるんですか。山崎さんヘルプ。さすがに私だけじゃ止められません。 「パッと見さえないですが眼鏡とったらホラ」 『……あ、武蔵だ』 「何その無駄なカッコよさ!!」 [*←] [→#] [戻る] [TOP] |