相手が少しずつ詰めてくる距離を確認しつつ、一瞬たりとも気を緩めまいと、震えそうになる身体を叱咤して腰の愛刀に手を添える。 『っ、待て…!』 くるりと踵を返し再び背を向けた高杉を追おうと、咄嗟に大きく踏み出した瞬間だった。目の前に突然現れる形で鈍く光る銀色を捉えた私は、反射的に刀を鞘から引き出す。 次に認識したのはガキン、という刃同士がぶつかり合う音と腕の衝撃。何とか持ちこたえたものの、力の差は圧倒的だ。 「フン。どうやら腕っぷしは一応あるようだな」 人を殺めることに一切の躊躇いも感じられない、重い一太刀に背筋が凍るような思いだった。 万が一でも急所に当たったりすれば、本当にあっという間に死んでしまうのだろう。 そこまで考えて頭を振る。今の私にそんなことを考える余裕はない。目の前の敵だけに集中しなければ。 「いいねェ、その目だ。隠しきれない獣の目」 『貴方と一緒にしないで下さい』 「ほう…殊勝なこって」 微かに孤を描いていた口元が厭らしく歪むのと同時に、手首が折れてしまうのではないかと思う程の重み。これ以上押されては危ない。 それでも何とか、負けじと体重を乗せて踏み込む。一か八かというところで後方からバタバタとこちらへ向かってくる足音が聞こえた。 「今回はこの辺にしよーや」 『高杉ッ!』 「……次会うときを楽しみにしてるぜ。真選組の監察方、真田優衣」 (耳につくその声が、) (私の恐怖を呼び醒ます) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |