押し負けそうになりながらも、流れに逆らうような形で突き進む。どれくらい走り回っただろうか。一向に彼が見つかる様子はなかった。 『あの人こんなときに一体どこほっつき歩いて…、』 言いかけて、視界に入った紫がかった艶のある髪色に足を止める。まるでその空間だけ時が止まったように周りの喧騒から切り取られていた。 視界に捉えたのは高杉晋助だった。本人をこの目で見たことはないが、何度も手配書で確認したから間違いない。何より、彼が纏う空気がそれを確信へと変えた。 土方さんたちに連絡しようにも今回ばかりは本当に一刻を争う。そんな暇はない。 「よォ嬢ちゃん」 『……気付いてたんですか』 「それだけ目ェギラつかせてりゃ嫌でも気付くだろうよ。その服、真選組か」 『だったら』 「ククッ。威勢の良い女はキライじゃねェ」 相手がこちらを振り向くのと同時に、互いの視線がかち合う。射抜かんばかりの眼に思わず怯みそうになるのを必死に堪えた。この男は危険過ぎる。 ピリピリと全身で感じる殺気をやり過ごそうと自分を奮い立たせる。冷や汗が伝うのを感じた。 今すぐ逃げてしまいたい。ダメだと分かっていても、身体が意識の奥底から拒否しているかのようだ。 「大人しく尻尾巻いて逃げるか、それとも…俺と、殺り合うか?」 『私は逃げません。悪人を捕まえるのが仕事ですから』 「……そうかィ」 [*←] [→#] [戻る] [TOP] |