「副長ォォ!山崎ただいま帰りました!!」 「おせーぞ!マヨネーズもちゃんと付けてもらったろーな!……オイ、これ」 「……実は急いでたもんで途中すっ転んでぶちまけちまいました」 そんなに悲惨な状況なのだろうか。そう思い、わなわなと肩を震わせる土方さんの手元の箱を覗き込む。 そこにあったのはどう考えても人為的に減らされた、要するに食べ残しのような、たこ焼きが3個だけだった。 「すいません。山崎退、一生の不覚」 「そーか。俺は口元の青のりの方が一生の不覚だと思うがな」 「……優衣ちゃん、食べる?」 『良いんですか?』 「うん。どうせまた新しいの買ってくるんだろうし」 『ではお言葉に甘えて。いただきます』 近藤さんと一緒に、ソースのたっぷり乗ったそれをもそもそと咀嚼。やっぱり屋台の味は格別である。 今回ばかりは自業自得だと思うので土方さんに殴られる先輩は見て見ぬ振りだ。 「オイどーするよ…って食ってる!?」 「そうカリカリするなよトシ。今日はコレきっと何も起こらんぞ!ハメはずそーぜ」 「何寝ボケたこと言ってんだ!この会場のどこかに高杉の奴がひそんでいるかもしれねーんだぞ」 先程までとは打って変わってキリと表情を引き締めた土方さんの言葉に近藤さんの雰囲気が少し変わるのが分かった。 あの男の手にかかってどれだけ幕吏がやられてきたか。そして、近頃起こった過激なテロのほぼすべてに奴が関わっているということ。 「攘夷だなんだという思想とは奴は無縁。まるで騒ぎを起こすこと自体を楽しんでいるようだ。そんな奴がこんなデケー祭りの場を見逃すわけねェ」 ドン、と大きな音に空を見上げると夜空に色をつける花火。江戸一番のカラクリ技師、平賀源外の見せ物が始まった。 (ふと感じた妙な胸騒ぎ) (どうか、何も起こらぬよう) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |