「心配するな、峰打ちだ。まァこれに懲りたら、もう俺に絡むのは止めるこったな」 『……坂田、さん?』 ズゥン、と派手な音共に砂埃を立てながら倒れたのはすぐ近くに立ち並んでいたはずの桜の木。 もちろん、彼が斬りかかったものである。 「てめェさっきからグーしか出してねーじゃねーか!ナメてんのか!!」 『……ひじ、かた…さん、』 一方の我らが副長は、何故か犬にジャンケンを挑んでいた。何回やってもグーしか出せませんってそれ。 焦点の定まらない二人を見ながら気を抜かす私の肩にポン、と温かい手が乗せられる。振り返ると同じく呆れ顔の山崎さんだった。 「一緒に飲みましょーか。グチを肴にして」 「そうですね」 『え、あの、私まだ未成年なんですが』 「優衣ちゃんはオレンジジュースでも奢ってあげるから心配しないで」 『良いんですか?』 「うん。あ、ところで君の名前は?」 「僕は志村新八です。こんなでも一応万事屋で雇って貰ってるカンジなんですけど」 「そっか。俺は真選組監察方の山崎退」 隣で自己紹介を始めた二人を微笑ましく思いつつ、未だ犬に向かって叫び続ける土方さんをチラリと横目で見やる。 まだまだこの滅茶苦茶な状況は終わりそうにないが、生憎私はあの泥酔状態の彼に近付くほど勇者ではない。 『……まあ、後で迎えに来れば良いか』 おーい。聞き慣れた声に振り返れば、控えめに、けれど笑顔で手招きする先輩と少年。慌てて手を振り返してから二つ並んだ背を追った。 縁側に腰を降ろし、今日の思い出に浸る。思えば真選組や幕府の関係者以外のメンバーを交えてお花見をしたのは初めてだろう。 始めこそどうなるものかと肝を冷やしたが、万事屋のメンバーも良い人ばかりだった。何より歳の近い女の子と友達になれたことが嬉しい。 時より頬を撫でる夜風がとても心地よいと思った。 『あ、土方さん忘れた』 翌日早朝。真選組の屯所では、予想以上の二日酔いで顔を真っ青にして帰ってきた副長が目撃されたとか。 (楽しければ良し) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |