「なっ、なんだ!?」 あいつのせいで、近藤さんは、あいつを庇って、怪我を。 何が幕府の高官だ。あいつらはどこまで行っても天人に変わりない。私たち人間を見下して、街を我が物顔で歩いて。 こんな奴に命を懸ける必要があっただろうか。否、護る価値もない。 「オイ!真田!!」 腕を掴んでいた原田さんの手を無理矢理振り解く。そのまま腰に下がる愛刀に手を掛けたのと同時に、奴を目掛けて走り出した。 躊躇などという感情は一切無い。他に何も見えなかった。 『殺してやるッ!!』 「っ、落ち着け優衣…!」 衝撃が走るのを感じたときには手の中にあったはずの刀は飛ばされていて、立ちはだかったのは焦燥を交えた顔の土方さん。 次の瞬間には目の前は真っ暗で、微かに感じた温もりと香るタバコの匂いに抱き締められているのだと気付く。 「頼む、堪えてくれ。ここは耐えるんだ、近藤さんの為にも」 『ひじかたさ、』 「優衣」 『っう…ぁ、わたし…何、やって…ごめんなさ』 カタカタと震え出す身体をどうしようも出来ずにいると、背中に回された腕に少しだけ力が籠められた。 すまねェ、と確かに彼は言った。小さく呟かれたそれを聞いていよいよ涙が零れだした私は土方さんの胸にしがみつく。 「自分を責めるな」 結局のところ、私はどうしようもなく弱くて、それでいて脆い人間なのだと思い知らされた。 (どうしようもない現実) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |