「……その麻薬の密売に、幕府の官僚が一枚かんでいたとの噂がある」 売買を円滑に行えるよう協力する代わりに、利益の一部を海賊から受け取っていたらしい。道理で深部の情報が見つからないわけだ。 「真偽のほどは定かじゃないが、江戸に散らばる攘夷派浪士は噂を聞きつけ、奸賊討つべしと暗殺を画策している」 『ということは……、』 「あぁ。俺たち真選組の出番だ!!」 言い終わるが否や山崎さんと目配せをしつつ、準備をと自室に向かおうと直ぐさま腰を上げる。 それと同時に隣に座っていた近藤さんにガッシリと腕を掴まれてしまい、中腰の状態のまま停止した。 「ちょ、優衣ちゃん達ストォォォップ!!」 『何故止めるんですか近藤さん。行動を起こすなら、早めの方が良いでしょう?』 「いや、そうじゃなくて…」 『じゃあ何なんですか!』 思わず声を上げてからハッとして我に返る。恥ずかしくて俯いたまま謝れば、顔上げて、と優しい声が降ってきた。 恐る恐る言う通りにすれば、そこには苦虫を噛み潰したような顔があった。困らせてしまっただろうかと申し訳なくなる。 「残念ながらね、今回は狙われた官僚の身辺警護なんだ。気が立つのも分かるけど、我慢してくれ。すまないな」 『……はい。こちらこそすいませんでした』 そんなに悲しい顔をされては居たたまれなくなってしまうではないか。早まってしまったのは、私の方だというのに。 失礼します、とだけ声を掛けて今度こそ自室へ向かった。足取りは重い。 (何故あなたはそんなに、) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |