律儀に手まで振って別れ、何故そんなにフレンドリーなのかとひとり疑問に思いながら去ってゆく武蔵っぽい人の背中を見送った。なんだか、また会いそうな気がするのは私だけだろうか。 ふと隣に目をやると既にそこには二人の姿は無く、もたもたしている間に歩き始めていた背中を慌てて追う。 『そういえば沖田さん、さっきまで持ってたバケツはどうしたんですか?』 「その辺に置いてきやした」 『いや、警察が自らの手で街を汚してどうするんですか』 「おーい兄ちゃん危ないよ」 頭上から聞こえた怠そうな声に何だろうと見上げてみる。次の瞬間には、ガシャン、なんて洒落にならない音と共に土方さんの目の前に着地した大きな木材の束。 あまりの衝撃音に敵襲という二文字が頭を過ぎったものの、落下前に確かに聞こえた声を思い出しその考えはすぐに頭の隅へと追いやった。 『だ、大丈夫ですか土方さん!?』 「あっ…危ねーだろーがァァ!!」 真選組を狙う輩はごまんと居る。だが真っ正面から仕掛けてくるような頭の弱い組織なら、わざわざこんな公衆の全面で襲ってきたりはしないだろう。 実際、奇襲しようと夜中に屯所を襲撃した者を何人も目にしている。 「だから危ねーっつったろ」 カツリ、カツリ、と調子のいい音が聞こえてきたと思えばすぐそばの屋根から下りてくる、作業服を着た人物。 それを目にした土方さんが直ぐさま反論すべく口を開いた。まあ、腰を抜かした状態で言われても迫力に欠けるのだが。 「もっとテンションあげて言えや!わかるか!!」 「うるせーな。他人からテンションのダメ出しまでされる覚えはねーよ」 「てめーは…池田屋のときの…」 『近藤さん事件のときの銀髪さん…!』 こんな町中で顔を合わせたのは偶然か、はたまた運命か。ヘルメットを取ったその男性に、私と土方さんは全く別物の驚きの声を上げたのだった。 「……ん?ちょっと待て優衣。お前、今なんつったよ」 『いや、だから近藤さん事件のときの…、』 「ちょ、おま、犯人の顔知ってたのォォ!?」 『あ、はい。その場にいた野次馬に聞きましたから』 「何で先に言わねーんだよ!」 『え?だって今日は動向調査を兼ねた見回りだって……』 「……あのォ?お二人さん、俺のこと忘れてない?」 「ちなみに俺もいまさァ」 (出掛ける前に確認を) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |