『だから止めた方が良いって言ったんですよ』 若干青ざめながら小さく呟いた副長を見た隊士達から次々と飛び出す罵詈雑言。 そこまで言われた土方さんも、当然じっと堪えて黙っているなんて出来るはずもなく。額に青筋を浮かべてわなわなと震え出すが、頭に血が上った彼等は気付いていないようだ。 「うるせェェェぁぁ!!」 被害が来ない内にと思い、静かに立ち上がり土方さんの後ろに避難する。 それとほぼ同時に大きな音と共にひっくり返されたテーブルからは湯飲みや灰皿が散らばった。片付ける方の気にもなって欲しいものだが。 「会議中に私語した奴ァ切腹だ。俺が介錯してやる。山崎…お前からだ」 「え゙え゙え゙!?俺…何もしゃべってな、」 「じゃべってんだろーが。現在進行形で」 理不尽な上司の言葉を後ろに聞きながら、雑巾取ってこなくちゃ、なんて呑気に考えながら襖に手を掛けると自分が開けるよりも先にそれは開く。 額に軽い衝撃を受けるも、眼前に広がるのは見慣れた黒で。恐る恐る視線を上げれば野生のゴリラを思わせる精悍な顔があった。 「おぉ、優衣ちゃんか。ごめんごめん。怪我してない?」 『あ、はい……じゃなくて近藤さん、大丈夫なんですか』 「いやぁ、いつになく白熱した会議だと思って。いてもたってもいられなくなったもんでな」 『いや、そうじゃなくて』 そう言って微笑んだ近藤さんの左の頬は居たたまれない程に腫れており、見ている方が痛いくらいだ。何より、その顔でみんなの前に出たら自分の醜態を晒すようなもの。 「よ〜し。じゃあみんな、今日も元気に市中見回りに行こうか」 『あっ、ちょ、』 何と言おうか考えている間に歩み出てしまった局長を目にした瞬間、その場が一気に凍り付いたのが分かる。 「ん?どーしたの?」 最も、当の本人だけは全く状況を把握していないようだったが。 (鬼の副長は苦労人) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |