念のため、と思って作ったおにぎりと淹れたての湯飲みを乗せて向かうは副長の仕事場。 部屋の前に着けば、中から聞こえてくるのは忙しく動くペンと時折響く紙を捲る音だけ。この様子だとまた何も口にしていないのだろう。 思わず漏れそうになった溜息を堪え、失礼します、と声を掛ける。相変わらず止まない音に、今度こそ溜息を吐きながら襖を開けた。 『土方さん』 「おう、優衣か」 『おう、じゃありませんよ。またこんなに長時間続けて』 「そう怒るこたァねーだろ。どうせお前が来てくれんだから」 『はいはい』 悪戯っ子のような顔の土方さんは滅多に見れないので貴重な表情だなんて思いながら、そのせいできつく言えないのもいつものこと。 ありがとな、なんて優しく微笑む彼は、そんな私の心境を分かっていてやっているのだろう。意地の悪い人だ。 『そうだ。今日はおかかを入れてみたんですけど、どうでしょう』 そう言って先程握ったばかりのそれを差し出すと、作業を中断して私の隣に腰を降ろした。ふわりと香る染みついたタバコの匂いを嗅げば、毎度ながらなんだかむずがゆい気分にさせられる。 「ん、うめぇ」 『お口に合っていたようで良かったです』 「今度は梅干しでも入れてみるか」 『それは流石に…、』 「なんだよ」 『いえ、何でも』 梅干しにマヨネーズってそんな。普通の人が口にしたらそれこそ昇天ものだろうに。 そんなことを考えながら軽く引き気味の私を後目に、何でもない様子で黄色いそれを頬張る我が上司。 本当に恐ろしいと思いました、作文。 「そういや近藤さん見てねェか」 『え、土方さん知らないんですか』 「……マジかよ」 『……まじです』 (手の掛かる上司に) (よく出来た部下) (どちらも大切な仲間) [*←] [→#] [戻る] [TOP] |