昼休みは折原くんの「人間の好きなところ」について延々と語られ、ついていけなくなった私は途中で寝てしまった。そのせいで午後の授業は出れなかったし、起きたら折原くんの端正な顔が眼前に迫っていた。そのうえ、あれだ……馬乗り、だった。 しばらく色々とトラウマになりそう。 「ねぇ小春ちゃん」 『…………』 とにかく大変だったし色々と危なかった。もう疲れた。……なのに!何でこうなったんだ私! 「ちょっとだけどこか寄ってから帰らない?俺の奢りでも良いからさ」 『本当に大丈夫ですから気にしないで下さい』 「あ、疲れた?じゃあいっそのことホテルでも、」 『行きません』 「そう意地張らないでさぁ。池袋で一番の格安のホテル知ってるよ?」 せっかくの学校生活を潰された挙げ句、放課後は家を知りたいとか言われ、ストーカーまがいなことをされているのだ。もちろん現在進行形で。 『何でそんな情報知ってるのかっていう突っ込みは無しの方向でいきますから、せめてこれだけ言わせて下さい』 「何?もしかして俺に惚れちゃったとか?困ったなぁ」 『困ってるのは私です』 「んー。じゃあ俺に家を教える気になったとか?」 『あの、いい加減にしないと警察呼びますよ』 「なんで?」 呆れ気味の私に、目の前の彼は本当に分からないと言いたげな表情を向けるばかり。 これでも半分くらい脅しのつもりで言ったのに全く効果がないなんて。彼は一体何者なんだ。 「無敵で素敵な折原臨也」 『人の心読まないで下さい』 「そうツンツンしないで」 なんていうか自分で言うのもアレだけど、もはやツンとかそういうレベルの話じゃないと思うんだけどな。 「じゃあ少しだけ。先っちょだけでも良いから」 『違う意味に聞こえるからやめて下さいマジで』 「やだ小春ちゃんのえっちー」 『……うざいです』 「チッ」 『ん?うわっ!?』 道端で言い合いをしていた私達の元へ突如飛んできたのは、コンビニのゴミ箱だった。 折原くんは避けてたけど危うく当たるところだったよ!っていうかあれって何キロくらいなの。……考えただけで恐い。 「いーざーやーくーん」 声がした方を向くと額に青筋を浮かべ、鬼のよう形相の平和島くんが近付いてきいてるのが見える。 「やだなぁシズちゃん。悠木ちゃんに当たったらどうするのさ」 『え、今の本当に平和島くんが投げたの?!』 思わず叫ぶと折原くんはやれやれといった顔で私を一瞥してから、わざとらしく溜息を吐いた。 ……え?私、何かしました? 「テメェが当たれば済む話だろうがよぉぉおおお」 あろうことか彼は、怒鳴りながら近くにあった標識を片手で引っこ抜いて臨也くんへと向かってくる。 「悪いね。どうやら今日はここまでみたいだ。じゃあね俺の小春ちゃん」 あれだけ私のことを振り回しておいて、折原くんはそれだけ言い残して颯爽と去ってゆく。 そして、そのあとを追い掛ける平和島くんの怒号が池袋に響き渡った。 『……いつから折原くんのものになったの私』 まあ、これで安心して家に帰れるし、そのくらい別に良いか。 開幕の合図は破壊音 (……トラウマ決定かな) |