「小春ちゃん」 トイレを出たところで突然名前を呼ばれ、恐る恐る後ろを振り返る。 そこに立っていたのは、この前の事件に私を巻き込んだ張本人。折原くんだった。 『お、折原くん』 「やれやれ。随分と警戒されちゃってるみたいだねぇ。まあ、いいけど」 『……何か、ご用ですか』 「用って程のことでもないんだけど、良かったらお昼一緒に食べない?」 『嫌です』 「即答かよ」 『それでは失礼します』 ぶっちゃけ、できればこれ以上関わりたくない。というか早く教室に戻ってお弁当を食べたいのだ。 その一心で彼に背を向けて踏み出したのだが、その思いは彼の手によって阻まれた。 『あの、すいません』 「どうしたの?」 『その手を離していただけないですか』 「残念。それは聞けないお願いだなぁ」 無理矢理逃げ出そうにもなかなか進まない。あんな細い腕の一体どこから、そんな力が湧いてくるのか不思議でたまらない。 『離して下さい!お弁当が私を待ってるんです!』 「うちの食堂のメロンパン、めちゃくちゃ美味しいって評判だよね」 『それがどうかしましたか』 「君、メロンパンが大好物なんだってね」 『何でそれを…!』 私が本気で驚いているのを見ながら彼はケラケラと笑って情報通だから、という一言で済ませた。 「実は俺、そのメロンパン2つも持ってるんだ」 『……そ、それで?』 「俺と一緒に食べてくれるっていうなら2個ともあげる」 運が悪いのか、いつも売れ切れで食べたことがなかった幻のメロンパン。喉から手が出るくらい欲しかったあのメロンパン。 その誘いに対する私の答えはもちろん一言返事だった。 『行きます!!』 「じゃあ契約成立ね」 別に食べ物に釣られたとかそんなことない。ただ、ほんの出来心。 「明日からもよろしく」 『え?何で』 「俺、何も今日だけなんて言ってないけど」 『丁重にお断りします』 「そのメロンパン手に入れるの大変だったんだけどなぁ」 『……………』 折原くんのずる賢さと自分の愚かさを身をもって知ったのは、また別の話。 明日もよろしく (君は見てて飽きない) |