「セルティ、悠木さんとの話はもう終わったかい?」 まるでタイミングを見計らっていたかのようだ。会話が終わるとほぼ同時に部屋の外から掛けられた声に、思わず肩が大きく跳ねる。 それは彼女も同じだったようで、ドアの方を見つめたまま固まっていた。 「返事が無いのは肯定と受け取って良いよね。入るよー」 【新羅、お前いつからドアの前にいた】 「やだなぁ。ついさっき来たばっかりだよ?この僕が君との約束を破るわけがないじゃない」 【…………】 「そうやってわざわざ沈黙を文字にするところがまた可愛、いだだだだ!」 セルティさんはズカズカと歩み寄ったかと思ったら、満面の笑みを浮かべる岸谷くんの足を容赦なく踏んだ。 その、なんて言うか、アレだ。とっても痛そうだね、うん。 「あぁそうだ。彼女にはもう言ってあるんだけどさ、よろしくね」 【おいちょっと待て。主語がないぞ、主語が】 「んー?だから、セルティと悠木さんが友達になるって話だよ」 【自分勝手も程々にしろ。だいたい彼女は良いと言ったのか】 ずい、と携帯のようなものを迫るように彼の顔に近付けたのは分かった。 だが、肝心な文字はこちらの角度からは見えないので話の流れがさっぱり把握できない。彼女は何と言っているのだろう。 「悠木さん」 『はっ、はい!?』 「改めて言うね。彼女と友達になって下さい」 ついさっきまで彼女に熱い視線を送りながら鼻の下を伸ばしていた彼が、急にきりりと顔を引き締めて言う。 どことなく真面目な表情の岸谷くんにふざけている様子はないのだが、内容が内容なだけに少し拍子抜けしてしまった。 【嫌ならはっきり断ってくれて構わない。大丈夫。気味が悪がられるのは慣れているから】 『いや、そう…じゃなくて、ですね』 「……ん?」 『その、岸谷くんの大切な彼女さんの友達が私なんかで良いのかな、とか』 自分で言いながら気恥ずかしくなって俯いた私の視界に映り込んだ黒。顔を上げると滑らかな動作でセルティさんが画面をこちらに向けて差し出す。 それを読み終えた頃には自然と笑みが零れていた。心がポカポカと温かい。 【君みたいな子と出会えて、私は本当に幸せ者だな】 今日から友達 (良かったね、セルティ) (あぁ、ありがとう) (き、貴重なデレ…!) (もう黙れ) |