「セルティ!たった今帰ったよ!まう僕は君に会えないと思うと阿鼻叫喚の思い……って、あれ?いないのかいセルティ?あ、悠木さん上がってて良いよ」 『お、お邪魔します』 何やら先程以上に興奮した様子の岸谷くんに軽く引きつつ、お言葉に甘えて上がらせてもらう。 前に来たときにはあまり意識しなかったけれど、今日は人口密度が小さい分部屋がやけに広く感じる。外からでも充分高そうなマンションだけど、改めて見ると高級感があるというか何というか。 「セルティー…わ、っと」 『岸谷く、』 どさり。肩に軽い衝撃を感じた後、冷たい革に打ち付けられる感覚。カーペットか何かにつまづいたらしい。 ちょうど自分の頭の横辺りで手を付いた彼とカチリと視線が合う。それが妙に恥ずかしくて思わず目を逸らして、そうして私は初めて気付いた。 「ごめん、大丈夫?」 『あ、えっと、うん』 この体勢は、なかなかマズいのではないだろうか。岸谷くんがソファーに片膝を付いてギリギリ留まっているとはいえ、彼との距離は予想以上に近い。 これはもしかしてタイミング良く彼女さんが帰ってきて修羅場フラグ。それは流石にベタ過ぎて逆に笑えない。どうしよう。 『あの、早く退いた方が良いんじゃ、』 「ねぇ、悠木さん。君は…実際のところ臨也のこと、どう思ってる?」 『折原くん?どう、って…急にそんなこと聞かれても』 突然の問い掛けを流そうと思うも、そうはいかないらしい。彼があまりに真面目な顔でこちらを見てくるものだから敵わなかったのだ。 どうって言われても。もっと具体的な、……あ、れ?岸谷くんの後ろに誰か、立って…る? 『ちょっ、岸谷くん!う、うう後ろ!!』 「あ、セルティおかえ、」 『ぎゃあッ!?』 突如現れた黄色いヘルメットに、所謂ライダースーツの人物。彼だか彼女だか分からないが、その人が手を上げたと思ったら指先から黒い糸のようなものが出てきて彼に巻き付いて。 ぐるぐる、ごろごろ。そのまま床に転がる黒い塊――もとい岸谷新羅。え、何これ。手品?ドッキリ? 突然起こった不可解な現象を目撃してしまった私は、既にショートしかけていた思考を放棄し意識を手放した。 キャパオーバー! (セルティー!?) (ここから出してぇぇえ) 岸谷はきっと至近距離で見ると予想外のイケメンに違いない。 そう信じて止まない管理人。 |