放課後、特に用もない私は図書室へと足を運ぶことにした。もちろん、勉強をするためだ。 まあ、別に家でやっても良かったのだが。帰りに某折原くんとか某臨也くんとか、誰かにちょっかいを出されるのを考えると帰宅時間をずらす方が賢明に思えた。 案の定誰もいないのを見て、うちの学校は本当にこれで大丈夫なのかと内心思う。ふつう、テスト前なのだから生徒の一人や二人いるものではないのか。 「悠木…?」 『あ、門田くん』 振り返った先には、つい先程も顔を合わせたばかりのクラスメイトが怪訝そうな顔で立っていた。 いや、たぶんドアの前で突っ立っていた私のせいだけど。っていうか確実に私のせい以外の何でもないだろ。ごめんなさい。 「お前も勉強か」 『うん。他に誰もいないみたいだけどね』 「まあ、良いんじゃねぇの?邪魔されねぇし」 そう言って少し悪戯っぽく笑った彼の表情は新鮮だった。あんな顔もするんだ、なんて思う。新しい一面を見つけた気がしてちょっぴり嬉しくなった。 わざわざ離れるのも何だから同じ机でやろうという提案に笑顔で返す。やっぱり面倒見が良いんだろう。母親っぽいと言われるのも分かる気がする。 『ここ、結構来るの?』 「あぁ、なんとなく家より集中できるからよ。それに、何つーか…落ち着くんだろうな」 『門田くんらしいね』 それから一言二言交わしてから、どちらからともなくシャーペンを走らせ始めたことで図書室に静寂が戻る。 時折響くペンを押す音や、教科書を捲る音が優しく鼓膜を揺らす。不思議と気まずさは感じることはなく、むしろ心地よいとさえ思えた。 どのくらい経ったのだろう。一段落したところで顔を上げれば、空がほんのり紅く色付き始めていた。そろそろ部活動に打ち込んでいる生徒達も帰宅の準備を始める頃だろうか。 視線を移すと門田くんは集中しているようで、眉間に皺を寄せながら問題集とにらめっこをしている状態だった。落とされた睫毛の影がやけに色っぽい。 静かな図書室で二人きりなんて随分とベタなシチュエーションだと思う反面、少しドキドキしている私がいる。 そんなことを考えている内に集中できなくなってきた。しっかりしろ自分。今は勉強の時間だぞ。 「何ひとりでブツブツ言ってんだ」 『え、あ、うそ』 「考え事か?」 『う、うん、そうだよ。あははは!』 「……なら良いんだが」 数分後、突如現れた第三者によって私たちの勉強タイムは敢え無く終了となった。 打ち消された静寂 (もう帰ったんじゃ、) (追いかけっこしてたの) (服、汚れてないよ?) (うるさい黙れ) 実はこっそり待ってた折原くん。シズちゃんから全力で逃げ切ったあと、校内探し回ってたらしいよ!……健気ですね^^ |