歪曲アーク | ナノ

 
 
そわそわ、そわそわ。

今日の折原くんは本気で落ち着きがない。いや、彼が静かなのは別の意味で怖いのだけれども。既に体験済みなのでそれは御免被る。


『ね、あの、ほんとにどうしたの…?』

「何でもないよ」

『私とっても困ってるんだけど』

「ん、知ってる」

『だったら……、』

「何か俺に文句あるの?」

『何でもないです』


朝から呼び出されたと思えば学校に来いの一言。無視しようにも後から何かされたら堪ったもんじゃない、そう思って慌てて身支度を終えて家を出た。

本来なら今頃テレビを見ながらのんびり朝食を取って、休日を謳歌していたはずなのに。これは随分な仕打ちだ。


「ねぇ、小春ちゃん。今日は何の日だか知ってる?」

『……みどりの日?』

「うん、そうだね。でもそれ心底どうでもいいや」

『ですよね』


むかつく程に真っ青な空は、いつだかの出来事を思い出させる。とは言っても、今日の彼は機嫌が悪いわけではないらしい。普通に話してるし。

それでも時々何かを期待するような目を向けては、キョトンとする私を一瞥して。あ、何か腹立ってきた。


『折原く、』

「今日」

『……え、あ、はい』

「俺の誕生日なんだ」

『へー…って、え!?』

「だから、俺の誕生日」


一瞬流しそうになってしまったが、今日が彼の誕生日だと確かに言った。誕生日ってあれだよね、ハッピーバースデーって。お祝いするんだったよね。

それで、あの目。まあ確かにふつうなら期待するよ。気持ちは分かる。


『最初から言ってくれれば良かったのに』

「それは、なんかやだ」


でも生憎、私は折原くんと違って情報通でも何でもない。彼氏でも何でもない、ましてや違うクラスの男子の誕生日なんて知るわけないのだ。

急いで出てきたから、何にも持ってないしなぁ。カバンを漁ってみるも、人様にあげられるようなものなんて入ってなかった。ぽっけに飴なら入ってたけど流石に可哀想すぎる。


「じゃあさ、何も貰わなくて良いよ」

『そっか』

「代わりと言っちゃなんだけど、一つお願い」

『あー…うん。いいよ』

「名前、呼んで」


折原くん、といつもの調子で言った私に彼の制止の声が掛かる。



「それは名字でしょ」

『え、』

「下の名前。呼んで?」

『いざ、や…くん』

「……うん」

『臨也くん』








あなたが幸せそうなので

(誕生日おめでとう)
(……ありがと)







特別な日くらい、って思いまして。たまには甘い感じも悪くないですよね^^


appyirthday

20110504

 
 






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