「さて、腹ごしらえも済んだことだし、どこへ行こうか」 『……まあ、うん』 ちなみに代金は、財布を覗いて絶句していた私を見かねた店長が安くしてくれた。と言っても、それでも足りなかった分は折原くんに払ってもらったのだけれど。 みんなの哀れみに満ちた顔が忘れられない。持ち合わせがなかったんだもの。仕方ないではないか。……にしても彼は持ちすぎだと思う。ぶっちゃけ、逆に怖くて訊くに訊けなかった。 「どこか希望は?」 「手前が仕切るな、うぜぇ」 「嫌なら帰れば?どうせロクに勉強しないんだろ」 「あ゙ぁ!?」 『あのさ、私、喧嘩するなら帰るからね』 途端に口を閉ざした二人を横目に、我ながら感心してしまった。少しずつだけれど扱いが分かってきた気がする。 しかしこの二人、仲が良いのか悪いのかよく分からない。喧嘩するほど、とも言うくらいだから実は仲良しなんじゃないかと思ってしまうのだ。 無論、本人達に言ったら命の保証は無いので口には出さないが。むしろ出せないと言った方が正しい。 「あぁそうだ。俺に良い案があるんだけど」 「……少しでも変なこと言ってみろ。ブン殴るからな」 「はいはい、分かってますよーっと」 鼻歌混じりに手際よく取り出したのは黒い携帯。なんというか、折原くんらしいデザインだ。 カチカチと尋常じゃない早さでボタンを押すのを見て、随分慣れてるんだなと思った。そこら辺の女子高生と良い勝負、下手したらそれ以上かもしれない。少なくとも私よりは早い。 「もしもし新羅?俺だけど。今からお前んちで勉強会するからよろしく。飲み物とお菓子4人分……あ、いや、5人分用意して待ってて。もちろん答えは聞いてないから。じゃあね」 『新羅…って岸谷くんのお家に行くの!?』 「うん、そうだけど。何か問題でも?」 『……なんて横暴な』 「何か言ったかい?」 『いいえ』 再びポケットへと滑らせた彼がニヤリと笑ったのをみて本気で帰りたくなった。それでも実行しないあたり、今の交友関係は意外と気に入っているのかも知れない。我ながら都合の良い頭だと思う。 ふと見上げると、そんなことを考えている間に歩き出していたらしい二人が不思議そうな顔でこちらを窺っていた。 「何やってんの、小春ちゃん」 「行くぞ」 『あっ、うん!』 「あぁくそっ…!手前のせいで取り損ねたじゃねぇか」 「知らなーい」 「ちょっと静雄。壊さないでよね?あ、やばい落ちる!」 開始15分。既に勉強道具を手放し、ゲームのコントローラーを握る3人を見ながら本日最大の溜息を吐いた。 幸せ逃げちゃうよ、なんて知ったこっちゃない。折原くんを睨み付けてみるも、全く悪びれた様子もなく逆に一蹴されてしまった。 「お前も苦労してんだな」 『門田くんもね』 「お互い様、か」 『うん』 ほら、勉強はあとで! (門田もやるか?) (いや、俺は遠慮しとく) (小春ちゃんは?) (結構です) (……即答かよ) 流石にこれで終わりだなんて野暮なことは致しませんよ! もうしばらくお付き合い下さいませ^^; |