「っくそ!!」 「あがッ…!?」 胸ぐらを掴まれてガタガタと震えていた最後の一人に何の遠慮も無く頭突きを喰らわせれば、随分と子気味の良い音がした。 ぐったりと力が抜けたのを確認して足元に投げ捨てると、まだ意識の残っていたらしい残党があわあわと逃げていく。 仲間を置いて自分だけ逃げるなんて、薄情な奴等だ。胸糞わりぃ。 「静雄?」 不意に後ろから聞こえた声に振り返ると門田が立っていて。なんとなく返事をする気にもなれなくて軽く片手を上げてみれば、何を思ったか近付いてきて少し戸惑った。 距離が縮まるにつれて相手の顔がはっきり認識出来るようになってくる。路地裏に転がる光景に少し苦笑いしているのが分かって、そんな門田を見て少し胸の辺りが痛んだ。 「また派手にやったもんだな」 「……そういうお前は買い物か?」 「あぁ、ちょっと欲しい本があったんで本屋へ行った帰りだ」 「そうか」 近くに放り投げてあった自分のカバンを持ち上げ、手で乱暴に砂を払う。途端に臨也の野郎の顔が浮かんできて、思わず爪が食い込むほど拳を握り込んだ。 やっぱり、そもそも俺が誰かと勉強会をするというのが無理だったのろうか。そんなことは自分が一番分かってはいたはずなのに。 それでも小さな期待に胸を躍らせていたのは、心のどこかで「悠木がいるなら」と思っていたからかもしれない。 あいつには何処か俺を安心させる何かがある。だからこそ、その不確かなものに甘えようとしていた。結局は誰かに甘えようとしていただけだ。 「そういや悠木、だったっけか」 「悠木?……あいつがどうしたんだよ」 「いや、さっき臨也とマックに入ってくのを見掛けたんでな。それだけなんだが」 「なん…だ、と」 「あぁ、臨也のやつ、いやに上機嫌だったぞ」 朝から妙な胸騒ぎはしていたが、門田の一言が決め手になって予感は確信へと変わる。次の行動へ移るのは簡単だった。 気付いたときには、足は自分の意志と関係無しに踏み出し始めていて。背へ向けられた門田の声は俺の耳に入ることなく消え、俺はひたすら走る。ただそれだけのことだった。 全てはヤツの手の中に (あの野郎ッ…!) (何が駅前集合だ!!) これだけ間開けておいてまだ始まらない勉強会。……焦らしプレイですね分かります。 |