そろそろではないかと思い、黒いそれをスライドさせてお目当ての番号を探し出す。ディスプレイに表示されるのはもちろん、悠木小春の文字。 通話ボタンに手を掛ければ、なんだか無性にワクワクして今にも笑いたくなってしまう。遠足前の小学生のような気分だ。 『もしもし?』 聞き慣れた声に思わず口角が上がりそうになる。ここが自分の部屋だったら間違いなくニヤけてたな。うん。 はやる気持ちを抑えながら、あくまで冷静に、いつも通りを装って。頑張るんだ俺。 「俺だけど」 『……何で番号知ってるの。私、教えてないよね』 「まあ良いから。細かいことは気にせず」 からかうように返せば、しばらくの沈黙の後に大きな溜息が聞こえた。それはもう、これでもかってくらいの。 「昨日はシズちゃんのせいで集合場所がアバウトになっちゃったんだけど、やっぱりいけふくろうの前で待ってるよ。あそこの前なら君でもすぐに辿り着けるだろう?」 『なんだか馬鹿にされてる感が否めないけど、いけふくろうの前ね』 「あぁ、ちなみにシズちゃんにはもう連絡とってあるから」 『分かった』 ケータイをポケットに滑らせると、特にやることもないので周りを見渡してみる。自分と同年代と思わしきグループや、カップル、主婦やサラリーマン。 実に多種多様な人間が思い思いに動いている駅の中での人間観察は、暇を持て余す俺にはもってこいだ。 目の合った女に微笑み掛けてみれば、頬を赤く染めてあからさまに顔を逸らされた。吐き気がする。高校生に色目を使うとか、ほんと傑作。 「ねーえ、僕、ひとり?」 「お姉さん達と一緒に遊ぼうよ」 「奢るくらいはしてあげるよ?」 「……は?」 気付けば囲まれていた。大学生だろうか。いや、社会人だったらそれはそれでドン引きだけど。っていうか香水くさいっつーの。付けすぎ、実に良くない。 何だか面倒なことになったな、なんて思いながらシカトを決め込もうとしたとき、視界に入った見慣れた制服。 「小春ちゃん、こっちこっち」 隙を見計らって間をすり抜け、キョロキョロしていた彼女の方へ向かう。後方から聞こえてくる耳障りな声は全力で無視だ。 『えーと…知り合い?』 「いやぁ、なんか知らない間に絡まれちゃって困ってたところ」 『そ、そうなんだ』 「じゃあね、オバサン」 そう吐き捨てると、直ぐさま手を取る。見せつけるようにしてぐっと距離を付ければ集団の声は残念そうなものへと変わっていった。 そういえば、手を繋いでることに関しては何も触れてこないのか。少し残念にも思いながら彼女に視線をやれば、耳まで真っ赤にして固まっていた。どうりで反応が無いわけだ。 「小春ちゃん?今日はいつもより静かだけど、どうしたの?」 『あ、あっ、あの』 「ん?」 『おお折原くん!手をッ、はな、離して下さいお願いします!』 「え、何?声が小さすぎて聞こえないなぁ」 『絶対わざとだ…!』 さあ、行きましょう (手離してってば!) (別に良いじゃん) (いや、良くないから!) 待ち合わせのときに逆ナンされてる折原は、とても可愛いなぁと思いました。 まだまだ勉強会は始まりません。ごめんなさい…! |