そ、そんな。嘘だ。こんなの嘘に決まってる。もしくは頭の悪い夢だ。あれ、頭の悪い夢って何だ。違うだろ、悪夢だ、きっとそうだ。 「遊びにばかりかまけてないで、きちんと勉学に励むこと!勉強こそが学生の本業だからな。ホームルームは以上」 週番の子が号令を掛け終われば、何事もなかったかのような涼しい顔で教室を後にする我がクラスの担任。 ぐちぐちと文句を漏らしていたクラスメイトたちもそれぞれの帰路についてゆく。どことなく、半ば諦めたような空気が漂ってはいたが。 『こ、これは緊急事態!』 「んだよ急に」 『あ、ごめんなさい』 思わず口に出してしまったそれに思わぬ返事が返ってきた。振り向くと、帰り支度をしていたであろう平和島くん。 「また一人でそんな顔してねぇで言えよ。話聞くぐらいなら、出来るだろ」 『……え?』 「なんつーか、泣きそうだったぞ、お前」 そんな顔してたかな、なんて他人事のように考えてみたけれど、やっぱり今はそれどころではない。 だって、だって、テスト一週間前だなんて聞いてないよ先生…!あ、いや、さっき言ってたけども。 「大方予想はつくよ、小春ちゃんのことだからねぇ」 『お、折原くんいつの間に』 「臨也てめっ」 「おっとシズちゃん、やめてくれよ。今日は君と喧嘩しに来たわけじゃないんだから」 折原臨也の得意技、人を見下した笑みが発動したようだ。どうする。逃げる?戦う?道具を使、 「ちょっと!軽く現実逃避しないでくれる!?」 『あはは……』 「今回のことは俺にも非が無いとは言い切れないからね。特別に俺が教えてあげる」 『ほんと!?』 「あぁ、もちろんさ」 彼が答えた次の瞬間、ばき、と聞いたこともないような音が耳に飛び込んできて思わず肩を揺らす。折原くんもひくひくと口元を引きつらせながら見ていた。 恐る恐る平和島くんの方に視線をやると、額に青筋を浮かべながら折原くんを見据えている。そしてその手元には、変形したイスの背もたれ。 「臨也くんよぉ」 「な、何かなシズちゃ…平和島静雄くん」 「俺もご一緒させてもらって構わねぇよな」 「は?何で、」 「良い、よな?」 珍しく青ざめる折原くんと、今にも投げ掛からんと机を構える平和島くん。そんな2人が一緒になんて、むしろ私も入れてこの3人で勉強会だなんて。 私はただ、何も起こらないことを願うばかりだった。 もう既に雲行きが怪しいのは何故? (明日10時に駅前集合ね) (遅刻すんじゃねぇぞ) (それこっちのセリフ) (……本当に大丈夫かな) |