和やかな春の空気を漂わせる、そんな日。日向ぼっこなんかをするには絶好の日和だと思うのだけれど。 そうなんだけどね、うん。正直言ってそんなことはどうでも良い、というか私それどころじゃない。 1000メートル走なんて面倒極まりないものを考えたの、どこのどいつだ。なんて頭の隅で悪態を吐きながら外を睨み付けるが、燦々と照らされた校庭は思いの外眩しくて思わず目を細めた。 「次、体育だぞ」 『……うん』 着替えを終え、制服を置くため教室に戻ったのだろう。怪訝そうな平和島くんの声が私を現実に引き戻した。 そうだよ、次は体育なんだよ。分かってた。分かってたけど、忘れたんだよ。 その、平和島くんにはあって、今現在、私が持っていないものを。 ……あ、や、別に卑猥な意味じゃないからね。そこは勘違いしないで頂きたい。私はどこかの変態と違って、至って真面目である。 「お前……体育着忘れたのか?」 『そうだよ、当たり』 するどいね、よく分かったね平和島くん。そりゃあまあ、次の時間が体育だと分かってて着替えないで突っ立ってるようなやつは、忘れ物したかサボりかって相場が決まってる気もするけれど。 ってそうじゃなくて。本気でどうしよう。 こういう日に限って他のクラスと曜日が被っていないので、借りれる当てはない。かと言って、体育着を拝借できるような先輩も残念ながら一人もいない。 「門田に聞いてみるか」 『門田くん?え、でも、同じクラスだよ』 「あいつなら何とかしてくれそうだし」 聞くだけ聞いてきてやる、なんて言いながら颯爽と向かう彼。 頼りになるなぁと思いながら再び外に目をやれば、準備の早い子たちは既に教室を出ていたようで、ちらほらと人影が見えた。 「悠木」 『あ、門田くん』 「ちょっと耳貸せ」 『……ん?』 何か良い案でもあるのかな。それにしても、わざわざこうしないで普通に言ってくれて構わないのに。 言われるまま、耳を寄せようと体を横に向けたら、ちょうど視界に平和島くんが入った。なんでこっち来ないんだろう。 「あいつならジャージ持ってるだろうから、借りてこい。臨也に」 『……え?何て?』 「じゃ、俺ら先行くから。頑張れよ」 私の質問を見事にスルーした彼はさっさと教室を出て行ってしまった。親切で言ってくれただろう門田くんには申し訳ないけど、素直に喜べない。 何で、よりにもよって折原くんなんですか。 至急、SOS! (どうしよう) (でも、後で走るのも…) (……行くっきゃないか) |