昼休み開始後5分。私は未だに授業が終わったときの体制のまま自分の席に座っていた。 『お腹、空いたな……』 いつもなら授業の途中だろうが何だろうが構わずやってくる彼は、姿を見せない。 どうしたものかと考えを巡らせてみるも、猫のような彼の思考を読み取るのは至難の業である。要するに、私には無理。 最初は嫌々ながらも一緒に、という感じだったはずが気付けば習慣と化している。人間なんて案外単純なものだ。 「悠木」 ぐう、とお腹の虫が鳴るのと同時に背後から声を掛けられ、慌てて振り向く。そこには購買で買ったであろうパンを抱えた平和島くんだった。 「お前、いつまでそこ座ってんだ?」 『あ、うん……そうだよね。早くご飯食べなきゃだよね』 怪訝そうに眉を寄せて見下ろす彼の目に、私はどう映ったのだろうか。明らか怪しいだろうに。 そういえば、ずっと折原くんと二人で食べてたから他に一緒に食べる子、いないんだ。なんだか今更ながら、取り返しの付かないことをしてしまった気がする。 「もしかして一人か」 『……えーと、その、友達が風邪で欠席みたいで』 「なら、一緒に食うか」 突然の誘いに、私は文字通り目を丸くして彼を見上げる。数秒見つめ合ったあと、ふい、と目を逸らされてしまったが。 「あんま見んな」 『あ、そっか、ごめん』 やっぱ気分が変わったから今の取り消し、だなんて言われるのかと思ってた。 なんだ、照れてただけか。また彼の新たな一面を見つけた気がして嬉しくなる。 「あー、教室じゃあれだし、屋上でも行くか」 『うん!』 こうして私は、平和島くんとお昼を共に過ごすこととなった――… ♀♂ どうせまた、どこぞで油を売っているんだろう。なんてぼんやりと考えながら時計に目をやれば、あと15分で本鈴が鳴る時間だ。 ということは、昼休みが終わりを告げるまで10分。本来ならば片付けもして屋上を降りなくちゃならないのに、何で。 「悠木、食い終わったか?」 『お待たせ』 「そろそろ教室戻るか」 『……うん』 この日、折原くんが私の前に姿を現すことは無かった。 生まれたのは違和感 (何かあったのか?) (な、なんでもないよ) (元気出せよ) (…うん、ありがと) |