ホームルームは何故存在するのだろうか。誰が何を目的に作ったのだろうか。 みんな口には出さないものの、教室には至極面倒だと言わんばかりの雰囲気が漂っていた。 「あとは保健委員だけだ、誰か希望者はいないか」 担任が促してもこの期に及んで手を挙げようなんて者がいるはずもない。 お前やれよ、いやだよ、とあちこちでなすり付け合っている声が耳に入った。 「言っておくが、決まらないと帰さないからな」 不運なことに、うちのクラス担任は教師のなかでも特に面倒なことで知られている。 あぁ、もう。ここまでくると何もかも面倒だ。 「誰もやらないならくじ引きにするぞ」 ああ出たよ。この手のくじはほぼ百パーセントの確率で当たるんだよな、私。……どうせ当たるなら自分から引き受けた方が良いかな。うん、そうしよう。 『あの、先生』 「なんだ」 『私やります』 「えーと……、」 『悠木です』 「では悠木、頼んだぞ」 『はい』 「誰か異議のある者は」 分かっていながらもが試しに教室を見渡してみるが、ほとんどが携帯をいじっていたり突っ伏していたり。耳を傾けている者自体が少ないという始末だった。 「だいぶ長引いてしまったが今日はこれで終了だ。礼は省略、解散」 掛け声とほぼ同時に他の生徒達は一人、また一人と教室を出ていく。私はそんなみんなの後ろ姿をただ呆然と見つめていた。 「保健委員やるんだ」 『……何でいるの、折原くん』 「いいじゃない。あ、担当の日は必ず遊びに行くよ」 『遊びに行く、って』 「何かダメだった?」 『あ、いや……』 そんなに堂々と邪魔する宣言をされても、どう返して良いかさすがに迷うものがある。この際聞かなかったことにするとしよう。 「それにしても保健室かぁ。先生が出張だったら有り難いんだけどな」 『もうやめてほんと帰って』 「一緒に帰ろうよ」 なんで、と聞こうとしたところで折原くんはお構いなしに颯爽とドアへ向かう。振り返ると一言、拒否権はないけどね、なんて悪戯な笑みを浮かべて言ってのけた。 そして、そこで初めて机の横に掛けてあった自分のカバンがないことに気付く。完全にしてやられた。 「ほら、行くよー」 『最悪だ』 「はいはい」 何事も無難に (一人で帰るよりはマシか、) (……なんてね) 静雄くんログアウト。彼はきっとみんなより一足先に帰宅した……はず。 家に帰るとプリンが待っていたんだよ、きっと。 |