先程から手ぶり身振りを付けながら、まるで自慢話のように語り続けているのは折原くん。 そんな彼は先輩や同年代はもちろん、入学したばかりの後輩にもその名は知れ渡っており、教師も手を焼く、いわゆる問題児というやつだ。 「それと……」 『一体いつまで続くの』 「まあまあ。ここからが話の山なんだからさ」 『そうですか』 勿体ぶるように言葉を濁し、ニヤニヤしながら私の隣を歩く折原くん。 彼が現在話しているのは、池袋の最新情報でも、大好きな人間の話でもない。私の個人情報である。 「あ、でも当の本人が覚えてるかどうかは俺にも分からないけどね」 『はぁ、』 私の家族構成から生まれたときの身長や体重、果ては現在のものまで。もはや私にはプライバシーの欠片も残っていないんじゃないかと思うくらい。 そんな個人情報を一体どこから調べたんだろう。どうせ、情報通だからと言ってはぐらかされるのが目に見えているので聞かないけれど。 「まだ小一の頃だから、ちょうど10年前だね」 『は?……10年前?そんなの私が覚えてるわけ』 どうせテストで0点を採ったとかそんなものだろうと思い、気にせず進もうとしたとき。ぐっ、と後方から腕を掴まれ、耳元に折原くんの吐息を感じた。 「親戚の高校生を好きになっちゃってキスをせがんだ、とか」 『親戚の、高校……うあああ!』 「なーんだ。覚えてたじゃん」 『な、なんでそれを知って!?』 思わず振り返ると予想以上に距離が近く、顔に熱が集中していく。たぶん、耳まで真っ赤だと思う。 原因である折原くんは楽しそうに口元を歪めてから唇に人差し指を添え、企業秘密だからさ、と言った。 『あ、えと……ち、近いんだけど折原くん』 「小春ちゃんったら真っ赤。熱でもあるの?良かったら俺が看病するけど」 金魚のように口をパクパクさせる私を見て、したり顔の折原くんはやっぱり苦手だ。 性格はアレだけど顔は無駄に整ってるから。格好いいって色んな意味でずるいと思う。 「おい臨也!!」 『平和島くん!』 「なーに、シズちゃん。俺と小春ちゃんの邪魔しに来たの?」 「手前なぁ…悠木が嫌がってるのが分かんねぇのか」 「へぇ、ヒーロー気取り?化け物のくせに生意気」 まさかの事態に混乱する私を余所に、平和島くんは近くにあった標識に手を伸ばす。 『え、ちょっ…何す、』 「そういうの器物損壊っていうんだよ?あ、バカだから知らないか」 「うるせぇぇえ」 あろうことか平和島くんは、そのままボコッ、と有り得ない音を出しながら何でもない顔で標識を抜いてしまった。 『へ?抜けた!?』 颯爽と逃げ出した折原くんとそれを追う平和島くんが去ったあとに残ったのは、未だに頭の整理がつかない私と元々標識があったであろう場所の穴だけ。 標識ってそんなに簡単に抜け……る、はずないよね。 ヒーローは横暴でした (……二人とも) (朝から元気で良いね) |