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ずっと遠くから眺めてたはずの彼が、手の届く距離にいて、すぐ目の前にいて。更なる上には私をじっと見つめている。

これほどまでに幸せで、それでいて最高に恥ずかしいことは今までにないかもしれないと思った。


「なぁなぁ、名前ちゃん」

『な、なに?』


志摩くんに名前を呼んでもらえただけで嬉しくて堪らない私は、ただでさえうるさい心臓が飛び出してしまいそう。

ピンクがかった派手な茶髪も、たれ目でくりっとした瞳も、まっすぐな視線も。全てが私を焦がしてしまうんじゃないかと思うほどに魅力的。


「何でいっつも坊のこと見てはるん?」

『……え!?』

「そんな驚かんでええよー。坊のこと好きなんやろ?」

『そ、それは、ちが、』


驚くなと言われても。あまりに的外れなことを言われて言葉も満足に出てこなかった。

私が見ていたのは彼の隣にいる志摩くんで、勝呂くんじゃない。私が好きなのだって、志摩くんなのに。


「こんな良い子に好かれる坊が羨ましいですわぁ」

『志摩、くん…なんでそんなこと…っ、言う、の』

「……名前ちゃん?」


視界が揺れて、堰を切ったように流れた涙。彼もゆらゆらと次第に歪んでゆく。

泣いたら、迷惑がかかる。分かっていても意志とは関係なく零れるそれを止める術が分からない。面倒だと思われたかもしれない。


「泣かんといて、なっ?…く、口に出したのがあかんかった?」

『別に、そういうことを…言ってるんじゃ、ない、の』

「ええと俺、どうすれば…」


眉をハの字にしながら子供をあやすような顔で笑った志摩くんに、きゅうと胸が締め付けられる。

これ以上彼を困らせるくらいなら。もういっそここで終わらせてしまおう、そう思って大きく息を吸い込んだ。


『わっ、私は…!!』

「はいいいッ!?」

『志摩くんのことが』

「うん」

『すっ、す、好き、なの!』

「……へ?」


あんぐりと口を開けて呆然とするのを見て「あぁ、やっぱりダメか」と思った。

どんどん脈が早くなって息をするのも苦しいくらい。それが果たして彼の所為か、羞恥からなのかは分からなかったけれど。全身から火でも出そうな程に熱かった。

それなのに、いつまで経っても返事は返ってこなくて。耐えきれなくなった私が顔を上げたのと同時だっただろうか、急に腕が伸びてきて彼の胸に押しつけられた。


『あの、く、苦しいっ…!』

「名前ちゃん」

『……志摩くん?』

「俺な、今、最っ高に…や、世界で一番てくらい幸せモンやと思う」






好きで好きで仕方ない



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