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『あーもう!ふざけんなタラシ!女の敵ッ!!』

「なんや今日は機嫌悪そうやなぁ」

『……志摩、』


突然後ろから現れてにっこり笑顔の彼に、つい数秒前まで煮えたぎっていた怒りがしぼんでいった。

それを見てクスリとひとつ笑みを零して、流れるような動作で私の頭に乗せられた手。いつもなら振り払うはずが、今日はそんな気分なんか起きなかった。


「彼氏さんと喧嘩でもしはったん?」

『うん。浮気、された…』

「ふぅん」


俯き加減に呟いた私を、彼は笑うでもなく、慰めもせずじっと見つめた。

なんだか居心地が悪くなって少し肩を竦めれば、彼の表情が急に神妙なものに変わる。ごく、と自分の喉が上下したのが分かった。


「俺にしたらどうです?」

『…は?何言ってんの』


いつだってそう。飄々として、私の思う斜め上を平然と立ち回る。きっと彼の真相心理なんて誰にも分からないのだ。

そのくせ他人との間にはきちんと線を引いて、ちゃっかり者。悪く言えばきっと、臆病者なんだろうと思う。


「好きな子が弱ってるとこに付け込むとか王道やないですか」

『……ばーか』

「傷付きますわぁ」


私は、ズルい。馬鹿なのも彼を傷付けてるのも全部私自身。

志摩の想いに気付いていながら見てみぬ振りをして、自分が弱ったときだけ私は彼に甘えて。

分かっていても、やめられないのだ。彼は大切な友達であって、私にだって別に好きな人がいる。


『志摩は、本当にバカだよ』

「急に何言うてはるんです。真顔で面と向かってそんなん言われたら、流石の俺かて心折れまっせ」

『折れちゃえ』


彼は気付いているのだろうか。私が志摩の想いを知っていることも、それを利用してしまう私の甘えも。

ならいっそ私なんかのことは諦めて、他を当たってくれれば良いのに。


『私ね、アンタのこと、割と好きだよ』

「そんなんとっくに知ってますー」

『……うざ』

「ちょ、それは流石にあんまりやない!?」


何だかんだ言って彼を跳ね返せない私は最低な女。でも、それで良い。

何でも良いから、傍で笑っててくれればそれで構わない。


『志摩』

「わわ、」

『今だけ、今だけで良いからこうさせて』

「彼氏に怒られても知りませんよー」

『アンタが黙ってればバレないでしょ。だから平気』

「随分信用されてるようで」


志摩の肩に頭を預けるようにしてもたれかかった私を彼がそっと引き寄せる。チクリ。胸が、痛んだ。






ボクもキミも





京都弁むずかしい。でも志摩さんが好きすぎて辛い。



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