何処を見渡しても人ばかりで、皆どこか浮き足立っているのが分かる。もちろんかく言う私もその一部に過ぎないのだが。 ずらりと並んだ屋台から漂う匂いに思わずお腹が鳴って、前を歩いていた彼の袖を控えめに引いた。 『銀ちゃん』 「んー?」 『あれ食べたい』 「うし、仕方ねぇから今日だけは俺の奢りな」 そんなことを言いながら、今にも流されそうな私の手を引いて人混みを掻き分けて進む。何気ない気遣いが嬉しくてつい口元が緩んでしまう。 浴衣を着ているせいで歩きにくいけれど、彼に褒めてもらえたから苦労して着た甲斐があったなと思った。我ながら単純だ。 『銀ちゃん』 「今度は何よ」 『浴衣、似合ってるよね』 「ふぐっ!…ぅ、けほっ…死ぬゥゥウ」 『……イイ歳こいて食べ物詰まらせるとか』 お前のせいだと言わんばかりの顔で睨み付けられたけど、顔が赤らんでいて迫力の欠片もなかった。 『かわいい銀ちゃん』 あ、また噎せてる。さっきからどんだけ動揺してんのこの人。ハタチ過ぎた大人が恥ずかしい。 少し冷たい目で一瞥すれば、随分とスナップをきかせた手で叩かれた。何それ痛い。っていうかせっかく長時間掛けて整えた髪が崩れる。 「何お前。何なのお前。俺のこと殺す気ですかコノヤロー」 『銀ちゃんが死んだら私、イイ歳こいて泣きわめくよ?』 「……ばーか」 『銀ちゃんほどではないけど』 「うるせ」 再び顔を赤くした彼の頬をつつきながら、二人きりの祭りも悪くないと思った。 祭囃子に乗せられて (来年も一緒に来ようね) (当たり前ェだ) こんなでも一応、茶季さんリクの「銀さんでギャグ甘」でした。全力で土下座。 ギャグ甘とか僕にはよく分かんないよ…。 |