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暇だ。暇で暇で仕方ない。これならば忙しい方がよっぼど良いとさえ思えてきてしまうほどに。

隊の仕事も終えたので誰かの手伝いでもしようかと思ったのだが、みな口を揃えて「お前は遊んでろ」と断られてしまったのだ。


『……つまんない』


みんなこういう時に限って子供扱いするんだから、堪ったもんじゃない。実際私が最年少なのだから仕方のないことではあるが、ちょっぴり悔しいものがある。

特にやる事もなくなった私は自然と甲板へ足を向ける。

モビーディック号は広いが、うちは元々人数が多い。その為誰かしらと鉢合わせになるだろうとは思ってはいたが、真っ先に視界に入ったのは全く予想外の人物だった。


『マルコ隊長!』

「ん?あぁ、名前か」


小さく呟いてこちらを振り返ったのを確認し、そのまま歩み寄って彼のすぐ隣に並ぶ。すると、それが意外だったのかマルコ隊長は少しだけ目を丸くした。

目を丸く、と言っても彼の重そうな瞼からそれを読み取るのは容易ではない。日頃の観察の賜物かな、なんて思ったけれど、それでは何だか自分がストーカーでもしていたように聞こえたので、その考えは隅に追いやる。


「そういや、名前にはいつも迷惑かけてばっかりだねい」


不意にそんなことを言われ、急にどうしたのだろうかと思ったが、とりあえず首を横に振ってみる。そんな私を見たマルコ隊長も照れているような、困っているような複雑な表情で笑う。

どうしたものかと首を傾げていると大きな手の温もりを感じた。けれど、分からないことに何ら変わりない。

そもそも、一番隊の隊長である彼に感謝される程のことをした覚えもないし、それが何に対するものなのか。いまいち把握できないのだ。


『私の方がいつも迷惑かけてますよ?それに、』

「お前さんは俺の目の届く範囲にいるだけで十分だよい」

『……あの、意味が分からないです』

「まあ、そうだろうな」


それで構わねェさ、そう言われ頭をガシガシと撫で回される。何だがはぐらかされた気もして、睨んでみたが隊長は笑うばかりだった。

私が子供だから、はたまた隊長が私より年上だからなのだろうか。やっぱり、よく分からない。ただモヤモヤとしたものが胸を満たす。


「とにかく、ありがとよい」

『……え』


ちゅ、と音を立てておでこから離れてゆく柔らかい何か。一瞬、突然のことに訳が分からなかったが、数秒かかって羞恥が込み上げてくる。ドタバタと走って逃げれば後ろから豪快な笑い声が飛んできたけれど、今はそれどころではない。

そのまま一直線に自室へ飛び込むと、火照る顔を隠すようにしてベッドにダイブした。


『マルコ隊長のバーカ!』


次の日、情けないことに目覚めたばかりの視界に飛び込んできた彼を見た私は気絶した。おはようのキスなんて誰も頼んでないってば。








大人の余裕?

(こっち来るなぁぁあッ)
(逃げることねぇだろい)

(ん?なんだありゃ)
(……さァ?)





マルコさん偽物すぎてほんと申し訳ない。



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