『臨也?』 チャイムを押してみるも反応はなく、何回かその動作を繰り返してからしばらくしても家の中からは物音一つしない。 いつもはチャイムを鳴らした瞬間に飛び出てくるのにな。 『いないのかな?』 同棲し始めた頃に臨也から貰った合鍵でそっとドアを開けた。 『おーい、臨也くーん?……勝手に上がっちゃうよ?』 もしかして寝てるのかも、と思い寝室のノブに手を掛けた瞬間に軽快なメロディが響いた。聴くだけで分かるように設定してある、彼専用の着信音。 恐る恐る確認してみると「急な仕事が入っちゃったから、今日は遅くなるかも」と彼らしい簡潔なメールだった。悪く言えば、素っ気ない文面。 『……ばか』 臨也から「今度の日曜って空いてる?」と聞かれたときはまさかと思いつつも、確かに少し期待している自分がいた。 だけど、それもたまたま誕生日と被っただけ。 期待した私がいけなかったんだ。そう言い聞かせて彼の匂いの染み込んだ枕に顔を埋めた。 「なまえちゃん!なまえちゃん!」 『んー…サイケ?』 可愛らしい声に呼ばれて思い瞼を開いてみると、自分の彼氏と瓜二つのサイケが覗き込んでいた。 見ているだけで毒気を抜かれるような笑顔は好きだ。でもこうも至近距離だと心臓に悪くて仕方ない。 こう見えて性格は正反対なので彼女の立場として少し複雑ではあるのだが。 「臨也くーん!なまえちゃんが起きたよ!」 「こらサイケ!せっかく寝てるんだから静かにしてろって言っただろ」 『……臨也?』 「ごめん、起こしちゃった?」 『大丈夫だよ。それよりごめん。寝るつもりはなかったんだけど……』 時計に目をやると既に7時半を回っていた。 えっと、臨也んちに来たのが5時だから……1時間半も寝てたのか。 「別にいいよ。滅多にお目にかかれないなまえの寝顔が見れたからさ」 『う、うるさい!』 「なまえちゃん顔真っ赤!」 『サイケまで…!』 「これは照れ隠しなんだよ」 「照れ隠し?」 「そう。ツンデレってやつ」 臨也が教えるとサイケは嬉しそうに「ツンデレ!ツンデレー!」と部屋を飛び回った。 っていうか私、別にツンデレじゃないし。 『そういえば今日は何か用事でもあったの?臨也から誘うなんて珍しいよね』 「あぁ、それなんだけどね」 「じゃじゃーん!!」 『……えっ?』 何が楽しいのか効果音までつけて満面の笑みでサイケが差し出したのは、可愛らしい飾りの施された小さな箱。 「おめでとう」 「なまえちゃんおめでとう!」 『なんで、』 「今日、誕生日でしょ」 『知ってたの?』 「情報屋以前に、なまえの彼氏だからね。君のことなら何でも知ってるよ」 何ならスリーサイズも当ててあげようか、なんて悪戯な笑みを浮かべる彼に、怒るどころか目頭が熱くなっていくのを感じた。 『今日、遅くなるって……知らないかと、思っ…のに』 「あのね、これ選んでて遅くなったんだよ!臨也くん、どれが似合うかなってずっと悩んで…もがっ」 「余計なこと言うなよサイケのバカ!」 それって、私のために真剣に悩んでくれたってことだよね。 ディスプレイの前でらめっこする臨也の姿を想像したら何だか笑いが込み上げてきた。 『バカみたい』 「バカで悪かったね。ほら、指出して?」 『うん』 「やっぱこれが一番君に似合う」 『サイズぴったり』 「確認済みだからね……ベットの上で、ぐほっ」 『余計なこと言わないの』 お腹を抱えてうずくまる彼を横目に「ベットの上…?」と首をかしげるサイケに今のは忘れようね、と念を押しておいた。 「と、とにかく……おめでとう。これ、婚約指輪ってことで良い?」 『へ?婚約?』 「そう。それと、俺のって証」 『ありがとう!私、今すっごく幸せだよ』 「それは良かった。来週の日曜はサイケも連れて雑誌でも買いに行こうか」 『3人でかぁ……なんか、親子みたいだね』 私と臨也もいつかは子供を間に手を繋いで歩いたりする日がくるのかな。 ……その前に、静雄をなんとか納得させないといけないか。 「そうだ!そうと決まったら小作りも積極的に、イタタタタ!ちょ、無言で抓らないでよ」 『まだ早い』 「なまえったら。君ってヤツは一体いつになったらデレてくれるの」 「なまえちゃんツンデレ!」 今日一日、一緒に過ごせた時間はあまり長くなかった。それでも、こんなに幸せな気分にさせてくれる臨也はやっぱり最高の彼氏だと改めて思う。 ……ただ、変態なのは色んな意味で直すべきだと思うんだ。サイケにも、いつか生まれてくる子供の教育にも悪いからね。 最高の一日を! (見てよサイケ) (なぁに臨也くん?) (待ち受け、なまえの寝顔にした) (僕にもちょーだい!) (あとで印刷しておくよ) あとがき→ [戻る] [TOP] |