宝物 | ナノ

 
 
「ねぇ、1日俺の助手しない?ちゃんと給料出すしさ。なーに、簡単な雑用をやってもらうだけだよ。悪い話じゃないだろ?」

怪しいと睨んだが、買いたい物がたくさんあった上、少々金欠気味だった私は、まんまとこの誘いにのってしまったのだった。


「……あの、これ何ですか」
「何って、メイド服じゃない」

臨也さんの自宅兼事務所へやってきた私に、こいつはこんなものを渡してきた。

「これをどうしろと。」
「もちろんなまえに着てもらうに決まってるじゃない」
「なぜ。」
「俺のお手伝いさんでしょ?まずは身なりから入ってもらわないとね」

冗談じゃない!なんでよりによってこいつの前で…!しかも、清楚なロング丈のメイド服とかじゃなくて、思いっ切りミニの肩出しメイド服なんですけどこれ。

「お断りします」
「ふーん?そう。じゃあ無理矢理脱がすよ?」

目がホンキです。

「自分で着るのと俺が無理矢理脱がすのとどっちがいい?」
「……自分で着ます」
「じゃあ俺は外出てるからね〜♪」

ニコッと笑ってスキップしながら部屋を出ていった。なんでこうなった……やっぱり臨也さんからの誘いはろくな事がない。

「はぁ。ほんと変態だ、あの人」

しぶしぶ着替えれば案の定、

「似合わない…」

鏡に写った自分を見て盛大な溜め息をはいた。ていうか、なんでサイズぴったりなんだ?

「似合ってるよ」
「うわぁ!い、いつ入ってきたんですか!?」
「今だけど?」

私をマジマジと見つめる変態臨也。お願いだから見ないでくれ!ほんと!

「うん。やっぱりなまえにぴったりだね。可愛いよ」

うわあああ!もう最高に恥ずかしいんですけど!

「……で、何をすればいいんですか」
「うーん、じゃあとりあえず紅茶を入れてきてくれるかな?返事はわかってるよね、メイドさん?」

うわー本格的な変態だ。助けて誰か。つまり、こう言ってほしいわけだよねこいつは。

「……はいご主人様…」
「よろしい」

本当に嬉しそうな顔だ。なんかルンルン言ってるよ。



その後は私にもできる簡単な仕事だった。書類を整理したり、ファイルを並べ替えたり移動させたり。膨大な量ではあったけれども。

「終わったぁ!」

ぼふっとソファーに座り込む。沈みこむような柔らかなソファー。私の家にも欲しいなこれ。

「ご苦労さま」

珍しく労いの言葉をかけてくれた臨也さんが私の横に座った、と思ったらそのまま私の膝を枕にしてしまった。

「ち、ちょっ!臨也さん!」
「しばらくこうさせて」

いつになく甘えてくる臨也さんが不覚にも可愛いと思ってしまった。

「臨也さん?」
「うん」
「眠いんですか」
「ちょっとね。最近寝不足だったから」
「……寝てもいいですよ」
「うん」

そう言うとスースーと寝息を立てて眠ってしまった。こうして見ると臨也さんだって天使の寝顔じゃない。安心したような顔を見ているといつの間にか私も眠ってしまっていた。



「あれ?」
「あ、起きた?」

臨也さんは既に椅子に座ってパソコンに向かっており、代わりに私の膝には臨也さんのコートがかけられていた。こういう優しいところもあるんだなぁなんて思ったり。

「はい、これ」

差し出された封筒は結構な厚みだった。

「こんなに戴けません!大したこともしてないのに…」
「いいよ。なまえのメイド服と寝顔が見れただけで十分だからさ」
「……有り難く戴いておきます」

私のメイド服と寝顔は随分と高くついたらしい。

「なまえ」

呼ばれて顔を上げれば、唇にふわっと柔らかい感触。

「またおいで」

耳元で囁かれ私は耐えきれなくなり、気付くと走り出していた。


メイド服であることも忘れて。








一番のごほうび

(それはお金なんかよりも、君がくれる甘いキス)


「また来てくれたんだね!」
「……服を取りに…」
「もうそのままでいいじゃない。なんならこれからずっとここにメイドでいた「お断りします」



心優しい綾音さんが私の酷いリクに応えてくださいました。
有り余るほどの文才を私にも分けて欲しいです←

本当にありがとうございました。

 
 
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