袖振り合うも多生の縁 | ナノ

 
 
ふと、暫く手を付けていない自分の部屋を思い出した。

流石に見ず知らずの男と一つ屋根の下、なんてのは嫌だろ。そう言って夜だけ家に帰ることを了承されたとは言え。実際使っているのは寝室、それから風呂場、あとはトイレや洗面所なんかだけ。

急に思い出しただけあって掃除をせずに放置しているのも気が引けた私は、許可をもらったので一度家に戻ってみることにしたのだった。


『ただいまー…』


主を失ったような部屋はまだ明るい内だというのにも関わらず厭に静かで、何だか恐かった。

いつもならズカズカと他人の家に入り込んできて私が寝るまで一方的に延々と喋っている臨也さんも今日はいない。本当に、ひとり。

少し前までここで平然と一人暮らしをしていたのが、本当に嘘みたいだ。そう思いながら埃を被ってしまった家具を拭いてゆく。裏返してみると雑巾がちょっと黒くなっていた。

そうしている内に目に留まった写真立て。まるで意図的に見えないように、見せないようにされたように倒されているのだ。

何故今まで気付かなかったのかとも思ったが、すぐに分かった。いつもは丁度あそこの前に彼が立っていたはず。


『……隠して、た?』


一瞬頭を過った考えを否定するように頭を振る。そんなわけないだろう。仮にそうだったとして、何故彼がそれを隠す必要があるという話なのだから。

恐る恐る手を伸ばしたところでズボンのポケットに入っていた携帯が震えた。


『もしもし、』

「俺だけど。そろそろ終わる頃かと思って」

『何かご用件でも?』

「帰りにおつかい頼んでも良いかな。冷蔵庫の食材、もうちょいで切れそうだからさ」

『分かりました』

「あとコーヒーも無くなりそうだからよろしく。いつものやつね」

『相変わらず人使いが荒いようで』

「まあまあそう言わずに。あ、ケーキでも買って帰るといいよ。もちろん俺の奢りだ」

『はいはい。どうせ最初から私には拒否権なんてもの無いんでしょう』

「いいねぇ。賢い子は好きだよ。んじゃ、なるべく早く帰ってきてねー」


別にケーキにつられたとかでは断じてないけれど。遅くなってどやされるのは嫌だから、ここは彼の言う通りなるべく早く帰ろう。

こうして家を後にした頃には、写真立てのことなんて頭の隅に追いやられていた。



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