なんとなく喉が乾いた気がして時計に目をやると5時。夕飯はまだ先だから大丈夫だ。 棚にあったクッキーでも引っぱり出して紅茶を楽しもう。そう思って手元の資料を一瞥したあと軽くまとめてその場に置いた。 『オリハラさん』 一瞬こちらを振り返ったと思えば、何事もなかったかのように目の前のパソコンへと視線を戻す。 聞こえてなかったのか、無視されたのか。まさかそれはないはず、と思いつつもう一度呼んでみた。 すると彼はクルリとイスごと回り、長い脚を組み直しながら私をジッと見つめた。何か気に障るようなことでもあっただろうか。 『オリハラさ、』 「ねぇ、いい加減その呼び方やめない?」 『何故?』 「余所余所しいよ」 眉を寄せながら駄々をこねる子供のように言う。私よりは年上のはずなのに、少し可愛いだなんて思えてしまってどうしようもない。 なんというか、これが母性本能をくすぐられるというやつなのだろう。でもそこで「はいそうですか」なんて答えられるほど私は大人ではないのだ。 『良いんじゃないですか?もともと私たち赤の他人ですし』 「……そうじゃなくて」 『何ですか?』 「俺が呼んで欲しいんだけど」 臨也って、ちゃんと呼んでよ。私が呆気にとられてる間に近付いていたらしい彼にグイ、と引っ張られその腕にすっぽりとおさまる。 『い、臨也…さん』 恥ずかしさで小さくなってしまったが、近くなったのが幸いしたのか彼の耳には届いたようだった。 それは良かったとして、いつになったら離してもらえるのか。彼から至近距離で香る匂いにクラクラする。 「……まあ、君にしては上出来ってところか」 ショートしかけた脳で必死に考えながらも、あんまり満足そうに笑いながら頭を撫でるから抵抗する気にはなれなかった。 11_0614 ← |