オリハラさんに保護され、かれこれ2週間が過ぎた頃。 「ナマエちゃん、」 最初の内は抵抗のあった彼の家で過ごす時間も、ちょっとは慣れてきたと思う。書類を整理したりといった簡単な仕事の手伝いも任せてもらうようになった。 ただ、名前を呼ばれるときに渦巻く何とも言えぬ感情。身体が拒否しているような、そんな違和感。これだけはどうも慣れない。 「それ、そっちの棚に入れておいて」 『ここですか』 「そうそう。飲み込みが早くて助かるよ」 『お褒めに頂きどうもありがとうございます』 「……今日もまた随分な棒読みっぷりだね」 そりゃどうも、と嫌味ったらしく返す。そしたら彼が至極楽しそうに口元を歪ませた。 与えられた仕事を済ませたところでソファに背を預けると急な眠気に襲われる。必死に耐えようとするも、次第に重くなる瞼は言うことを聞いてくれそうにない。 「眠いの?」 『……すみませ、』 「別に構わないよ。ゆっくり休むと良い」 おやすみ。まどろむ意識の中で聞いたそれに少しだけ頷くと、頭に乗せられた温かみ。その心地よさに私はいよいよ眠りに落ちた。 ♀♂ 「好きだよ、ナマエ。早く戻ってきて」 私にしては珍しく夢を見た。それも、やけに鮮明だったように思う。 お願いだから、そんなに悲しそうな声で私を呼ばないで。あなたは誰なの。 「ひとりは、寂しいんだ」 私はこの声を知っている。知っているはずなのに、思い出せない。胸が締め付けられるようだった。 11_0531 ← |