袖振り合うも多生の縁 | ナノ

 
 
目が覚めたらそこには真っ白な天上が広がっていて。視界の隅に映ったこの場に似つかわしくない黒が、やけに際立っていたように思う。


『あの、すいません。どちら様でしょうか』


白衣の類は身に付けていなかったから明らかに医師ではない。でも、全く見覚えのない人であることは確かだ。

故に、率直な疑問だった。

ここはどこなのか、どういった経緯で自分はここで寝ていたのか。聞きたいことは他にもあったが、聞かなくてはいけない。そんな気がした。


「責任者、とでも言っておこうかな」

『……そうですか』


困ったような、それでいてどこか喜んでいるような。複雑な表情をしながらも真っ直ぐ見つめ返してくる赤い眼。

それに飲まれそうになっていた私の耳に、声が届く。一応大事をとっての検査入院らしいから、と彼は言った。そこで「病院なんだ」と呑気に思う。


「あぁ、それと」


先程とは打って変わり、不自然なくらいに爽やかな笑み。いわゆる営業スマイルを浮かべた男は続ける。

ゴクリ。自分の喉が懸命に唾を飲み込む音が鼓膜を伝って脳へと響いた。


「俺の名前は折原臨也。素敵で無敵な情報屋さ」


そこまで聞いて自分の中の違和感の正体に気付く。不思議と、怖いだとか気持ち悪いだとか、負の感情は湧いてこなかった。

ただひとつ言うならば――


『……なんか、変な名前』


オリハライザヤ、確かにそう名乗った彼の、驚いた顔が意外だと思った。

だがそれも見間違えかと錯覚するほど一瞬で、直ぐに口元が弧を描く。まるで新しいオモチャを見つけた子供がするような表情だった。


「いいねぇ、君。ますます気に入ったよ。名前は?」

『ミョウジナマエ、です』

「ナマエ…、良い名前だね」


そう言って柔らかく微笑んだ彼の顔を見た私は思わず息を呑む。そこで始めていて彼の容姿が酷く整っている、そう認識した。みるみるうちに体は熱を帯びていく。

良い名前だ。本来ならばお世辞に聞こえるそれが、本当に心の底からそう思ってくれているように聞こえたのは何故だろうか。


「また明日の朝、迎えにくるから」

『、はい』

「お大事にね」

『ありがとうございます』


それじゃ。そう言って部屋を後にする彼の背中が、やけに寂しそうに見えた。



11_0504




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -