袖振り合うも多生の縁 | ナノ

 
 
朦朧とする意識の中で確かに感じた温もりに、心の奥底、わだかまりのようなものがすっと消えていく感覚。

なんだか夢心地で、それでいて不安定な現実味を帯びていて、俺でも夢なんて見るのかと、相変わらずの思考回路に少し安心した。


「……ナマエ?」


まだいくらか重さを残した瞼を上げると、そこには思いもよらない光景。それを認識した途端、先程までの妙な安心感に納得してしまう。

腕の中には温かな重み。すやすやと呑気に寝息をたてて眠る彼女は、どこか遠慮がちに丸まっていて。その姿は小動物を彷彿とさせた。

ベッドのすぐ側には来客用のスリッパと、放り投げられたように転がるバッグ。その景色になんだか笑えてきて、柄にもなく頬が緩んでしまう。


「これが…幸せ、ってやつ…なのかねぇ」

『いざや、』


寝起きの舌っ足らずな呼び掛けに、返事は返さず、そうっと頭を撫でてやる。するともぞもぞと身じろぎして、小さな手が俺の頬を包んだ。

俺はというと、馬鹿みたいに目を丸くして、いつになく真剣な表情でこちらを見据える彼女を、じっと見つめ返すばかりで。


「ナマエ?なに寝ぼけて、」

『写真立て、わざと、なんですよね』

「……あぁ、そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないね」

『家中のアルバム、引っぱり出したんです。探して探して、ひとつだけ違うの、やっと見つけて……苦しくて、かなしかった』


ぽろぽろ、彼女の顔を滴が濡らして、気付けば自分の頬には一筋の涙が伝った。臨也。もう一度確かめるような声が俺の名前を呼んで、やさしく鼓膜を揺らす。


『わたし、何で忘れたりしたんだろう』

「ナマエ、」

『こんなにも、大切なひと』

「っ、うん」

『臨也、ただいま』

「……おかえり」


手繰り寄せるように抱き寄せれば、彼女の腕が首に回って、ぐっと近付いた距離。愛しくてたまらなくて、そのまま額に口付け。

溢れる涙を止めることなく綺麗に笑った彼女に、もう二度と離してやるもんか、と一人誓った。



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