ただいま。無意識に漏れてしまった第一声には、もはや苦笑いするしかなかった。玄関を抜ければ真っ暗で、真夜中を示す時計の音だけがやけに響いている。 「流石に今日は帰ったか…」 自分の家だと言うのに自分一人の空間にひどく違和感を覚えてしまって、ぼんやりと朝の会話を思い出す。 ここ最近は自分を取り巻く環境にも慣れてきて、笑顔の増えた彼女。戸惑いながらもきっと、あの子なりに何か掴んだものがあったんだろう。 と、そこまで考えて彼女の指定席と化しているソファへと視線をやる。彼女はとっくに帰ったというのに、どこかに気配を捜してしまう自分がいた。 突き放すような態度を取りながらも喜びを隠しきれていない未熟さや、時折見せる子供のような無邪気な顔。気付けば目で追っていて、自分は彼女に依存しているのだと自覚させられて。 ――ほんと、馬鹿げてる。 二十歳を超えた大人が、あろう事か、顔も合わせず半日を過ごしてしまったことが寂しいだなんて思ってしまっている。少し気を抜いただけでこの体たらくとは。 本当は、名前を呼べば今すぐにだって出てきてくれるんじゃないかとか、まだここにいるんじゃないかとか。 らしくもないことを考えるのは、果たして疲労感によるものなのか。徐々に胸の内で膨らむ苛立ちを押し込めるようにベッドへとダイブした。 12_0205 ← |