ブルー寮の前まで来て、思わず足を止める。

「うわぁ…」

人集りが出来ている、しかも女生徒の。
何だろうかと見ていると、人集りの中心に自分の目的の人物がいるのが分かり納得した。
天上院吹雪さん、自分がバレンタインのチョコを渡そうとしている人物で、周りにいるのは彼のファンだろう。
女生徒に囲まれにこやかに対応する吹雪さんにさすがだと感心しつつ、僅かに落ち込む。吹雪さんは女の子好きなのは知ってるし、人気者なのも分かる。自分は多少親しいだけなのだからこんな風に落ち込むのはおかしいことだが、なぜだか気持ちが上昇しない。

「(渡すの止めようか…)」

あの女生徒の中に入ってチョコを渡すなど今の自分には出来そうにない。
溜め息吐いて、踵を返すとその場をあとにした。



結局渡すことが出来ず、逃げるようにあの場を去ってしまったが、いたところで渡せたかどうか。
自分らしくないなと苦笑を浮かべ、レッド寮へ戻ろうと歩いていると後ろから声がかかる。

「十代くん!」

振り返ると吹雪さんがこちらに向かって走ってきていて、驚いて固まってしまう。

「ふう、追いついて良かった」

にこりと爽やかな笑顔を浮かべる吹雪さんをまともに見れず俯いてしまう。

「さっきブルー寮の前にいたよね、僕に用事があるんじゃないかい?」

思わず顔を上げると吹雪さんは相変わらず笑みを浮かべていて、さすが鋭いなと感心する。どうしようか少し迷い、誤魔化しても仕方ないと思い持っていたチョコを差し出した。

「バレンタインのチョコです、良かったら…受け取って下さい」
「ありがとう、嬉しいな」

にこりと笑い受け取る吹雪さんにほっとする。受け取って貰えて良かった。

「開けても良いかな?」

チョコのラッピングを差しながら問う吹雪さんに少し迷いながら一つ頷く。
あまり菓子作りなんてしないから自信がない、なるべく出来の良いものを選んでいれたものの若干歪な形をしている。
ラッピングを解き中を見る吹雪さんがどんな表情をするのか不安だった。

「わあ、美味しそうだ」
「ほ、本当ですか?」

思わず聞き返すと吹雪さんはにこやかに頷いた。
そして何か思いついたように吹雪さんがあ、と小さな声をあげる。

「これ食べさせてくれないかい?」
「えっ…?」

チョコを差し出しながらにこにこと笑っている吹雪さんを思わず見返す。
暫く見つめ合い、吹雪さんが折れることはないだろうと観念して、一度落ち着くために深呼吸してチョコを一つ摘む。

「あーん」

口を開けて待つ吹雪さんに照れつつも何とかチョコを口へと入れる、その時に唇に指が触れ顔が一気に熱くなった。

「うん、やっぱり美味しいよ」

笑みを浮かべてウィンクをする吹雪さん。

「…あ、ありがとうございます」
「お返しは期待してて」

今までの中で一番爽やかな笑顔を浮かべて言う吹雪さんに、小さく笑みを返した。

「(来月楽しみだな)」



Happy Valentine's Day!


一周年記念&バレンタイン企画でした。
楽しんで頂けたなら幸いです(^-^)
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