確か今日は調べものがあると言っていたからまだ校舎にいるはず。
いそうな場所を探すがなかなか見つからない。
「いない、な…それにしても…」
溜め息を吐いて、きょろきょろと辺りを見回すと女生徒が結構校舎に残っている。彼女たちもバレンタインのチョコを渡すためだろう。
もしかしたら自分と同じ人物に渡すのかもしれない。そう考えると僅かに気落ちする。
だがここで挫ける訳にはいかない。渡すと決めたのだから絶対に渡したい。
「ここにもいない、か…」
手当たり次第に探しているのにまったく見つからない。もしかしたら寮の方へ帰っているのかもしれない。
そう考えて寮へ向かおうとした時、腕を掴まれ引き寄せられた。
「うわっ」
突然のことにバランスを崩しそうになったが力強い腕に支えられて何とか転けずに済んだ。
「すみません、大丈夫ですか?」
上の方からかかる声にはっと顔を上げると今まで探していた人物だった。
「遊星!」
どこか心配そうにこちらを覗き込む遊星に小さく苦笑を浮かべて体勢をたてなおす。
「大丈夫だけどさ、いきなり引っ張られたからびっくりしたぜ」
「すみませんでした…今日はその、バレンタインですから…チョコを持った女子に追いかけまわされてここに隠れていたんですが、十代さんが何かお探しのようでしたので声をかけようかと思ったのですがまた女子に見つかったらと思うと…」
僅かに疲れたような表情を浮かべる遊星に苦笑を浮かべる。
女生徒に囲まれ戸惑う様子が目に浮かぶ。遊星のことだから邪険には出来ず何とか誤魔化して逃げてたんだろう。
「遊星もてるもんな」
見た目もだが性格も良いし、他の女生徒が好意を寄せるのも分かる。
そう考えると何だか自分に自信がなくなる、自分は女子らしくはない、どちらかと言えば言動ともに男っぽい。
そんな自分からのバレンタインのチョコは遊星も欲しくないかもしれない
「…遊星は誰からもチョコ貰わないのか?」
たくさんの女生徒から隠れていると言うことは誰からも受け取ってないと思う。
遊星は一瞬驚いたような表情を浮かべ、真剣な眼差しをこちらに向ける。
「十代さんからだったら欲しいです」
「…え?」
何を言われたか分からず、思わず間の抜けた声が出る。遊星は気にした様子なく真剣に言葉を続ける。
「バレンタインは好きな人から欲しいんです」
じっと見つめられ顔中が赤くなっていくのが分かる。心臓が信じられないくらい早く鳴っている。
「…俺から、なら…受け取ってくれる、のか…?」
「はい」
深呼吸してそう言うと遊星はにっこりと笑って頷いた。それに少し安心し、おそるおそる持っていたチョコを差し出す。
「ありがとうございます」
本当に嬉しそうに笑う遊星をまともに見れず目を逸らしてしまう。
ちゃんと言葉にして伝えたいことがあるのに恥ずかしくてなかなか言えない。
渡すときに言えば良かったな、と少し後悔して一つ息を吐く。
「十代さん」
名前を呼ばれ顔を向けると遊星は笑みを浮かべて一言。
「好きです」
再び目を逸らしそうになったが何とか耐えた、だって俺だってちゃんと気持ちを伝えたい。
「っ…俺も、好きだ」
小さくて本当に呟くような声だったけど、遊星には聞こえたようで満面の笑みを浮かべた。
Happy Valentine's Day!
一周年&バレンタイン企画でした。
楽しんで頂けたなら幸いです(^-^)