幸村がいないなんて、別に変わったことじゃない。



入院してから毎日いなかったし、実質的には真田が部長をしていたようなものだ。



だから、珍しくとも何ともない。




「はず…なんじゃけど」



幸村が出て行った次の日、つまり今日。

朝偶々、奴の姿を見た。


家出と言っても学校にはいるのか、なんて思いつつ気まぐれに話しかけた。




『おはよーさん』


『あぁ、おはよう。仁王くん』







『……ん?』



いつにも増して爽やかな幸村が爽やかに去っていった後、気づいた。



仁王くん………?




どうやら、俺や他の部員たちとも何処かよそよそしいというか、他人のように振る舞っているらしい。

以前なら、おはようの挨拶代わりに脇腹つねってくるのに。




そんな幸村の態度にモヤモヤした。



俺たちの心からも出ていってしまったようで、なんだかぽっかりと穴が開いてしまった……そんな心境だ。


気晴らしに授業をサボって屋上に来てみても、ただ風が髪を撫でるだけ。



(こんな時、いつもなら幸村がくるナリ)



自分が授業をサボろうとなれば、必ずと言っていいほど彼が遅れて屋上に来ていた。


そして、話すのは部活のことばかり。



この間赤也がボール取ろうとして転けた、だの。
真田のズボンずらしたら赤ふん履いてて爆笑した、だの。



楽しそうに話す幸村を、俺は何度も見た。



そして気づけば、幸村のその笑顔を見たいがために屋上へサボりにくるようになっていた。


多分、幸村の笑顔を見ることで俺は安心していたんだと思う。


今日も声をあげて笑ってる。話している。動いている。


そんな彼の姿を自分の目でしっかりと確認して、



────あぁ、コイツはちゃんと生きてるんだ。




そんな風に、まだ不安が残るこの心を少しでも落ち着かせたかった。




「プリッ…

今回ばかりは仕方ないき、俺も味方になっちゃる」



独り言にしては大きな声で、給水タンクの陰にいる存在に語りかけた。





寂しくなんかない




111024





おまけ



ダンッ


「!?…………………なんじゃ」


「…なんでもない」


「なんでもないって……俺かて、男に抱きつかれて喜ぶ訳じゃないナリ」


「別にいいだろ、俺だから」


「ホントわがままな娘さんじゃな」

「イップ「息子さんじゃな」






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