「もういい真田なんて知らない」 「あぁ、俺も幸村など知らんからな」 ただならぬ空気が流れる部室。 原因は確実にこの二人だ。 「精市も弦一郎もその辺にしておけ。 既に赤也が限界を越えたぞ」 「別に赤也が泣こうが喚こうが俺には関係ない。だって神の子だし」 「またか幸村。俺はお前のその、"神の子"の使い方も気に入らない」 「俺も真田の"皇帝"呼びに疑問を抱いてたとこなんだよね。 きっと皇帝って、おっさんの間違いだよね」 「二人ともいい加減にしろと、俺は言っているんだが」 「柳。お前には関係無かろう。 俺たちの喧嘩に口を出さないでほしい」 幸村くんと真田の喧嘩を止めに入った柳すら、何だか巻き込もうとしている。 頼むから早く終わってくれないと、そろそろ赤也の目から涙が落ちる。 「先輩!!」 あ、落ちた。 と思ったのと同時に、涙が零れた彼が少し掠れた声を張り上げた。 聞いていたこっちも若干痛々しい気持ちになりなる。 「なんで、なんで喧嘩なんか…」 「赤也にはわかんないだろうね」 「そんな言い方はないんじゃなか?」 赤也の言葉に冷たく返事をした幸村くん。そしてその幸村くんにキレかけている仁王。 もうやだ…お前たち面倒くさい。 「赤也がお前ら心配しとんの、分からんのか? 可愛い後輩泣かせといて、何が神の子じゃ。何が皇帝じゃ」 「黙れよ詐欺師。お前は精々、コートでそのくだらないペテン仕掛けたら?」 「失礼ですが幸村くん。 仁王くんは立海が勝つために自ら詐欺師という、悪役を買って出ていらっしゃるのです。 そんな彼に向かってその言葉は聞き捨てなりませんね。 仁王くんに謝罪してください」 「あーもう、お前ら嫌だ。ああ言えばこう言うし、前から合わないとは思ってたけどまさかここまでだったとはね」 「な、幸村!お前はそれを本気で言っているのか!!」 「何で俺がわざわざ嘘吐かなきゃいけないの? ……はぁ。もういいや。 俺、明日から部活来ないから」 「はぁ!?何言ってんだよぃ!」 「明日から部長は真田。俺は退部して他のチームに行くから」 「ふん、お前の最後の我が儘だからな。聞いてやろう」 「その上からが腹立つけど、これ以上関わらないんだしね。いいよ、許してあげる。 じゃあみんな、頑張ってね」 それだけ言って幸村くんは颯爽と荷物を持って部室から出ていった。 また部室に不穏な空気が流れる。 「弦一郎、今なら間に合う。早く精市を追いかけて謝ってこい」 「………しかし、」 「しかしも何もない。 言い訳は後で聞いてやらないこともないが、ああなってしまっては精市が戻ってくる確率は0.2%だ」 ひっく!低い低い! なんだその微妙な低さは。 「俺も柳に賛成ナリ。 早く追いかけんしゃい、お父さん」 「年頃の娘さんとの関係は難しいとは思いますが、たまには真田くんから折れてみてはどうでしょうか」 「?少し気になる部分もあったが、お前たちがそう言うなら、仕方あるまい。 行ってくる」 よくわからない、という顔をしながら足早に出ていった真田はこの後、5秒で戻ってきた。 聞くところによると、もう部室の入り口から見えた幸村くんの背中は米粒程度だったらしい。 なんたって幸村くんは本気になれば、四天宝寺のスピードスターも目じゃない。 「明日からどうなるんだろ…」 こうして、幸村くん基、神の子は立海大テニス部を出ていった。 部長が家出しました。 111018 おまけ 「まぁ…家出なんてそう長くは続かんぜよ」 「所詮、中学生です。移動範囲も決まっているようなものですし」 「そ、そうだぜ真田!元気出せよファイヤー!」 「家出…幸村…」 「ダメだ。今の弦一郎に俺たちの声は届かない」 「幸村部長ぉ……」 「ほんっっとお前らアホだよな…」 |